九曲 仲合、同盟会話
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仲合物語
天衣無塵
その回数が多すぎて、おかしいとすら思わなくなった。
ただ今日だけは、好奇心と少しの心配から、私のは木の下に一人で座っている彼のもとを訪ねた。
無剣:キュウ……あなたーー
九曲:九曲です。
無剣:なにキョク……?
九曲:九曲です。
無剣:分かった……では九曲。
九曲:ん?何かご用でも?
無剣:えっと、聞きたいんだけど、何も食べなくて本当に大丈夫?
彼は頭を横に振って、思いのほか淡々として口調で話した。
九曲:食べないのではなく、ただあなたたちと食べる物が違うだけです。
そう言いながら、彼は一つの錦の袋を取り出して私に見せた。
無剣:これは……花びら?もしかしてそれをご飯として食べているの?
九曲:まあな
彼は落ち着き払った顔をしている。まるでごく普通のことを話しているかのようだ。
無剣:じゃあ……私も食べてみてもいい?
何だか突然、その花びらがどんな味なのか気になった。
九曲:ええ……別にいいですけど。
彼は私に視線をよこすと、花びらを一枚つまんで私の手に渡してくれた。
実際に食べてみると、その花をご飯としても食べている九曲に対して深い敬意が生まれた。
無剣:この花びらの味は……だいぶ独特だね。
九曲:独特な味?
彼は僅かに疑いを込めた目で私を見た。多分私がこんな感想を言うとは思わなかったからだろう。
無剣:最初に口に入れた瞬間はほんの少し甘さがあるけれど、後味は苦くて渋い味だけなんだね……よく食べられるね。
九曲:そうでしょうか?情花の花弁の味は元々そういうものです。それに、過去は絶情谷でーー
九曲:私は花弁と果実で腹を満たし、泉の水でのどを潤し、石室を家とし、山林を床としています。一日一年こうやって修行を続けております。
九曲:ーー今となっても、何一つ変わりません。
無剣:それは……もったいないよ。
その徹底ぶりを見て、私は思わず感嘆した。
無剣:あなたは今絶情谷にいないのに、どうして昔の規則を遵守して暮らしているの?
無剣:私だったら、絶対にしたことのないことをしたいと思う……せめて食べたことのない食べ物は食べるかな~
九曲:それはあなたのことです。私はその話に興味がありません。
無剣:あなたって頑固なんだね……でも大丈夫、いつかきっとあなたにも興味があることが見つかるよ!
九曲:ほお?では試してみてください。
九曲の淡泊表情を見て、絶対に彼の考え方を変えてやると心の中で固く誓った。
心有羅網
九曲:ーーまたあなたですか?
近づいていくとすぐに気づかれ、彼はぱっと目を開け私の方を見た。
九曲:何度も試したのに、まだ諦めないのですか?
九曲:何度も言ったはずですーー私はこの外の世界にある物を知りたいという考えは全くありません。
九曲:だからいくら試しても無駄です。
話の終わりに、気のせいだろうか、九曲のいつも穏やかで平静な瞳に、どうしようもなさが見えた。
無剣:……そんなこと試してみないと分からないんじゃない?
思わず九曲の視線から目をそらし、そして宝物を捧げるように持って来た物を彼の前に置いた。
無剣:ほら、これが今日何とか見つけた物!とても貴重な物らしいよ。
九曲は眉をひそめて、この絶情谷の印が付いた粘土で塞いでいる酒瓶を長い間見つめたあと、ようやく返事をしてくれた。
九曲:もしかして……これは「情花酒」?
無剣:うん、これは絶情谷にしかない美酒みたいだ。この酒に詳しいの?
私は玉壺を取り上げ、一杯注ごうとした。
次の瞬間、彼は首を横に振って酒瓶を開けようとする私を止めた。
九曲:禁酒は絶情谷の決まりです。だれも規則を侵しません。
九曲:くわえて、他の酒はこの「情花酒」に太刀打ちできない。
その話を聞いて私は好奇心がそそられた。「情花酒」は他の酒と比べて何が違うのだろうか。
無剣:この「情花酒」に何か特別なところがあるの?
なんで私に開けさせたくないの?まさか中に秘密でもあるとか?
九曲:……特に何もない。
私は九曲をじっと見つめて、彼から糸口を見つけようとしたが、その顔には何の表情もなく、何を考えているのかさっぱりわからない。
無剣:いいよ。このお酒はしまっておく。せっかく見つけたのに、もったいない。
そう言いながら、私はこの塞いでる酒甕を机から取りのけた。が、手を滑らせて酒甕を落として割ってしまった。
九曲:なっ……!気をつけて!
このとき、私はようやく彼のこわばった顔姿を見た。
しばらくしないうちに、私はそのぷんぷんとする酒気に当てられて目眩がした。もう九曲の反応を窺う余裕がない。
無剣:ゴホ……ゴホゴホ……これが「情花酒」の香り……ゴホゴホ……そんなに美味しいものでもないね……
九曲:分かったか?「情花酒」は情花汁を使用して作った「酒」。香りだけで人を酔わせる。
いつの間にか九曲は私によく分からない丸薬を飲ませて、納得できないような顔をした。
無剣:試してみないと、私はあなたの考えていることが分からないままだ。それではきっと後悔する……
「酒」がだんだん回ってきたせいで私の意識は少しぼやけてるが、頑張って思っていたことを口に出した。
無剣:だって……「過去」を無くして、「今」すら留めておけないなんて嫌だ。
無剣:だから九曲に、「絶情谷」にいた時代の中でずっと生きて欲しくない……
そう言いながら、頭が更にぼうっとしていく中で、私は九曲がかすかなため息を吐く音を聞いたような気がした。
九曲:それが……あなたの本当の気持ちですか?
九曲:しかしもう手遅れです。私はもう……
その声がぼやけていて、言葉の切れ端しか聞きとれなかった。
まだよく言葉の意味を咀嚼出来ないうちに、暗闇へと眠りに落ちていた。
以是因縁
ーー前はいつも私が彼のところに行ていたが、今では彼が私のところに来ている。
彼は聞こえがいいように、私を見張るだの、二度とあんな「危険」なことをしないようにだの言った。
無剣:……たった一回酔っただけで、別に危険じゃないよ。
絶情谷でぶらぶらする私についてくる九曲を見て、思わずぶつくさと文句を言った。
話を聞いて、彼は真剣そうに返事した。
九曲:あの時、あなたは酔っ払って何もわからなくなっていました。もし私が敵だったら、あなたは危険な目に遭っていたかもしれません。
無剣:敵の前で酔うわけないでしょう……もしあなたじゃなかったら、私は……
私は納得出来ずに小さな声で反論した。その時の九曲の冷たい表情を、誰が予想出来ただろうか。
九曲:口実を探さなくても大丈夫です。何にせよ、あなたが緩みすぎていることは事実です。
九曲:今度、私がついていない時に勝手な行動は許しません。
それを聞いて無茶苦茶な、としか思えなかった。
無剣:どうして?そんなことをしても意味ないよ……
九曲:ーーそんなの、試してみないと分からないではないですか?
九曲は口を開いて私の話を遮った。
九曲:この前、あなたはそう言いましたよね?
同じ言葉なのに、彼に言われるとまた違う意味に聞こえたような気がした。
九曲:事実、あなたの「試してみようとすること」のおかげで、私は確かにこの外の世界に知りたい、感じてみたいものができました。
九曲:ーーそれはあなたです。
九曲:だから、あなたが傷つけられるような可能性を全て排除します。
私は彼が話した言葉の真意に感動する一方で、彼のやり方に不安を感じた。
無剣:けどこれは九曲自身の考えで、まるで「網」のように私は覆い被され、息ができなくなるようで……
彼に説明してみたものの、すぐに彼の冷笑にばっさりと切り捨てられた。
九曲:ふん、あなたがうまいことを言って勝手に私の「網」に入ってきたくせに……
九曲:今度は逃げるつもりですか?
無剣:そうは思っていないけれど、ただあなたの意識を私に無理やり押し付けないで欲しくて……
無剣:あなたはあなた、私は私。全く違う人だよ。
九曲:そうでしょうか?けどもう遅い、遅すぎる……
私の答えを聞き、九曲は悲しいような嬉しいような顔をした。眼は暗く光っている。
九曲:自分が気になる存在を自分の支配から逃がすことなんて出来ません……
九曲:この感覚は……記憶のないあなたには分からないでしょう。
その時彼の瞳は全ての感情をなくし、まるで荒涼しきったが故のような平静さの至っていた。
その後彼は背を向けて、花々の影へと消えていった。私は思わず自分に聞いたーーまさか私が間違っていたのだろうか?
この時、答えてくれる人はもういなかった。
常在纏縛
私は脳裏で走馬灯のようにかけ巡る過去を徐々に整理する一方で、九曲と最後に会ったときの情景を何度も思い起こしていた。
本当は彼を見つけて今の私の気持ちを伝えたかったが、いつも最後には一歩を踏み出す勇気を無くす。
そう、今この時みたいに。あの姿がすぐそこの大樹の隣にいると知っているものの、私は彼を30分程見つめてから立ち去ろうとしていた……
九曲:ぐえっ
振り向くとなにやら「壁」にぶつかったらしく、顔が痛くてたまらない。
気がつくと、その「壁」は私が回り道をしてでも避けたかった青年だった……
九曲:相変わらず注意力散漫ですね。
第一声には決まって反論出来ない。それは今回も例外ではなかった。
九曲:ーーなぜ私を避ける?
だが次の言葉には答えずにいられなかった。
私は深く息を吸って、落ち着いたふりをして口を開いた。
無剣:私はただ……あなたの邪魔をしたくない。
九曲:ではあなたがやっていることは私とどう違うのですか?
無剣:えっ?
九曲:どちらもただ「あなたのためを思って」という考え方で誰かに代わって勝手に決めている。違いますか?
無剣:俺は……
九曲:そんな目で見ないで、私は……ちょっと分かっただけ。
九曲は眉を少しひそめて、目に映る表情を容易く隠し去った。
無剣:ふふ、私も同じかもしれない。
私はわざと気楽に笑ってみせ、そしてやっと、ここ数日考えた結果を話し出した。
過去の記憶を取り戻したからこそ、何も出来ないまま、ただ大切な人、事、物が離れていくことの辛さを思い知った。
無剣:私なら、網を編んで、すべての危険や苦しみを遮断して、自分の愛する人たちを永遠に守り続けようとすると思う。
それを聞き終えると、九曲はしばし黙ったあと、顔を上げて低い声で言った。
九曲:あなたはもう……していますよ。
彼はとてつもなく深い眼差しで、私の目をまっすぐ見つめた。
九曲:ここ数日、あなたが近くにいると気づく度に、私は落ち着いていられなくなっていました。
九曲:網に囲まれたように、中から出られない……
九曲:……
気持ちを取り乱したせいで、と小さい声でしか彼の名前を呼べなかった。
彼はそれを聞くと、とても淡い笑顔を返してきた。
九曲:これで、引き分けということですね?
九曲:私は私の「網」であなたを縛って、あなたもあなたの「網」で私を縛った……ひょっとしたら、このまま一生縛り続けてしまうかもしれませんね。
一生?悪くないかもしれない。そう思って、また冗談半分に聞いてみた。
無剣:もしそうなったら、後悔する?
九曲:後悔?
彼は眉をひそめて、粛然とした様子で私に目を向けた。その目から伝わってきた真剣さは前よりもずっと熱を帯びていた。
九曲:ただ一つ、分かったことがあります。それは何千回と選ぶ機会があったとしても、私が永遠に自分自身で守りたい、縛り付けたいと思った人は、あなただけです。
彼は手を伸ばし、ぎゅっと私の手を握った。
そのまま、私たちの指は隙間もなく絡みあい。
ーーそして、何があっても離れることはない。
同盟会話
○○の九曲:絶情谷は軍事的要衝地ではありませんから、敵がそちらに兵を投入するはずがないでしょう。
○○の九曲:時折攪乱しにくる魍魎は淑女と君子の二人で始末できましょう。
○○の九曲:逆に剣塚の方が人手不足なので、私はここに残り、皆と剣塚を守ります。
○○の九曲:この手にある網は魍魎の行動を巧みに封じることができますが、攻撃面では不足があります。
○○の九曲:この網の作りを改善すれば、もっと役に立つでしょう。
○○の九曲:皆で力を合わせて魍魎に抵抗している今、当然全力を出すしかないでしょう。
○○の九曲:花弁で腹を満たし、泉の水でのどを潤し、石室を家とし、山林を床とする。私の修行はこの通りです。
○○の九曲:実を結ぶために、一意専心するしかありません。
○○の九曲:途中で怠けたり諦めたりしてはいけません。
判詞
二句目 竹と柳で喩えるなら、柳の影はしなだれ切ない
三句目 変化万別の網を織り出すために
四句目 拗ねた思いを縛るように
五句目 露を飲んで日々痩せていき
六句目 実が届かない高い場所からだ
七句目 寂しさから愛情を探すのは毒のある花に近づくよう
八句目 歳を重ねるごとに悩みは尽きぬ
コメント(2)
コメント
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・絶情谷は軍事的要衝地ではありませんから、敵がそちらに兵を投入するはずがないでしょう。
時折攪乱しにくる魍魎は淑女と君子の二人で始末できましょう。
逆に剣塚の方が人手不足なので、私はここに残り、皆と剣塚を守ります。0 -
・この手にある網は魍魎の行動を巧みに封じることができますが、攻撃面では不足があります。
この網の作りを改善すれば、もっと役に立つでしょう。
皆で力を合わせて魍魎に抵抗している今、当然全力を出すしかないでしょう。
・花弁で腹を満たし、泉の水でのどを潤し、石室を家とし、山林を床とする。私の修行はこの通りです。
実を結ぶために、一意専心するしかありません。
途中で怠けたり諦めたりしてはいけません。0
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない