冷雨探花
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冷雨探花
神隠しの白兎
金糸は剣塚に来た時から、一匹の大胆な兎と仲良くなっていた。そして今日はその兎のために私たちのところに来たのだという。
金糸:無剣ちょっと手伝ってくれないか。
無剣:もちろん。でもいったいどうしたの?
金糸:あぁ、ごめん、慌てて言い忘れた。普段俺が餌を与えていた兎のことなんだが。
金糸:今日も餌をあげようとしたら、姿を見せなかった。どこを探しても見つからないんだ。一緒に探してくれないか。
無剣:いいですよ。とりあえず普段餌を与えている所に行ってみましょうか?
金糸:ええ、是非!
そうして金糸と共に兎が現れるという森に来たが、さらに周辺の森まで回ってみたものの、兎が来た痕跡らしきものは一つも見つからない。
金糸:はぁ…どうしよう?何処にもいないぞ。
無剣:うーん…ひょっとしたら見つけた人がいるかも。誰かに聞いてみましょうか?
金糸:よし!以前この辺りで花雨を見たことがある。何か知っているかもしれない!
無剣:じゃあ花雨を探しましょう!
金糸:花雨!
花雨:……
花雨はいつものように木の下に静かに座り、自分の手を見つめていた。
無剣:聞きたいことがあるんだけど…
花雨:(頷く)
金糸:……
花雨は相変わらず無口であった。そして明らかにそれに慣れていない金糸は困った表情を浮かべている。私は急いで本題に入った。
無剣:いつも金糸が餌をあげている兎がいるんだけど、今日は姿を見せていないの。見かけていないかしら?
無剣:どんな兎かは知っているはずなの、この間一緒に見たあの兎よ。
花雨:知ってる。
金糸:えっ、知ってるのか?!
花雨は黙って頷き、ある方向を指した。
花雨:あっちよ。
金糸:そのウサギで間違いないのか?
花雨:後ろの右足の様子が変。怪我していたみたい。
金糸:そうか…なら間違いない…
私たちはその方向に向かって進みだした、しかし以外にも出会ったのは数匹の魍魎だった。
兎の在処
わたしは後ろについてきた花雨を振り返ってみた。彼女も周りを調べているようだ。
無剣:大丈夫。まだ見つかっていないだけ。もっと探してみましょう!
白兎の救出
花雨が藪をじっと見つめているため、私はつい聞いてみた。
花雨は私の質問に答えず、慎重に藪を押しのける、すると中から兎が一匹姿を現した。兎は最初、花雨を見て身を縮めていたが、しかしその視界に金糸の姿を見つけると、一目散に彼の懐に飛び込んでいった。その動きを見るに、確かに右足に怪我があるようだった。
金糸:無剣ありがとう!今回は世話になったぞ!
無剣:気にしなくていいよ。
金糸:お前にも感謝するぞ、花雨!
花雨は静かに頷き、また視線を地面に戻した。
無剣:花雨、また何か見つけたの?金糸、彼女はこういう性格なの、だから気にしないでね。
金糸は頷いて理解を示す。花雨は身を屈めて地面から白紙を一枚拾い上げた。
無剣:この紙に何か?
花雨は紙上の汚れを指す、よくみると汚れの中に混ざって六つの黒い点があるのに気付いた。
無剣:いったいどういうこと?
花雨:分からない…
金糸:ただの紙切れだろ、帰ってから考えよう。それよりこいつの怪我の治療が優先だ。
花雨は頷いて紙をしまう。私たちがそのまま帰ろうとした時、不意に周囲で物音が起こり花雨が警戒を始める。
花雨の視線の先を見ると、そこには冥狼爪が一匹いた。
無剣:冥狼爪が。なぜここに?
金糸:なに?
花雨:危ない!
何かを嗅ぎつけたように、冥狼爪は私たちの方向に目をつけ、そして襲いかかってきた。
緊急治療
金糸:さっきの戦いで傷がもっと深くなったよ。どうしよう?
無剣:剣塚に帰って治療してあげよう。
金糸:わかった!
花雨:うん。
私たちは急いで剣塚へ戻り、兎の怪我を治した…
行方不明の姉
金糸:よかったな!
無剣:うん、そうだね!
花雨もうなずき、嬉しそうな顔になった。
無剣:だいぶドタバタしていたし、少し休みましょう。
金糸:あいつに餌をやってくる。今回のことに影響がないといいが。
しかし残念ながらも休む間もなく、私たちの元に駆けつけてくる人影があった。君子は息を切って私の目の前に現れ、こちらの質問も待たず、急いで話し始める。
君子:無剣、俺の…姉がいなくなったのだ!
無剣:なんですって?一体どういうこと?慌てないでゆっくり言ってね。
話を聞いたところ、君子は昨日剣の修業を済ませた後、姉の淑女を探しに行った。しかし見当たらなかったので、どこかに用事でもあるのかと思った君子は彼女の部屋の前で帰りを待つことにした。しかしそれから一日経っても淑女は一向に帰ってくる気配がない。それで剣塚に、私の協力を求めに来たということらしい。
君子:…ということだ。無剣一緒に探してくれないか?
無剣:了解!
無剣:花雨、金糸、私は絶情谷に行ってくるから、みんなにもそう伝えてね。
花雨:私も連れて行って。
無剣;花雨も一緒に行きたいの?
花雨:うん!
無剣:わかったわ…
君子:ありがとう、じゃあ行きましょう!
花雨:分 か り ま し た 。
私たち一行は急いで絶情谷へと出発した。
絶情谷に到着してから、そのまま淑女の部屋まで向かった。部屋のドアを何度かノックしてみたが返事はない。やはりまだ彼女は帰ってきていないようだ。
君子:もうすぐ二日になる、これ…どうする?
無剣:あまり心配しないで。何か事情があるのかも。
君子:だけど今までこんな事は……
君子の姿に私の緊張も強くなる。不安に急き立てられるように動き出し、とりあえず外に出ようと踏み出したところで花雨に服の裾を引っ張られた。降り返すと彼女はじっと地面の足音を指さしている。
無剣:これは?
君子:これは…姉さんの…
無剣:おそらく彼女の足跡でしょうね。それに足跡についている泥、この種類の泥は碧水寒潭にしかないものだと思うわ。急いで向かいましょう。
花雨:分 か り ま し た。
君子:碧水寒潭、そこでもう一度探してみよう。
私たちは急ぎ碧水寒潭に向かった。手前まで来たところで数匹の魍魎に遭遇、焦った君子は先陣を切って魍魎に切り込んで行った。
姉は何処
無剣:待って、もう少し探してみましょう。きっと何か手掛かりがあるはず。
銘石の銘
私はそばの茂みに隠れていた石碑を見つけた。その石碑には「絶情谷、窖」などの文字が書かれているようだった。
君子:これは?
無剣:この文字から見ると、酒蔵の銘石のようね。
君子:つまり、この近くに酒蔵があるのか?聞いたことがないぞ。
無剣:という事は、淑女も知らなかった?
君子:無剣、まさか姉さんはこの酒蔵を探しに行ったのか?
無剣:その通り、私たちも行こう!
君子:そうだね、まずは酒蔵を見つけて、それから姉さんがそこにいるかどうか確かめよう…
淑女を見つけるために酒蔵を探す途中、意外にも擲乾坤と出会った。どうやら彼も何かを探してるようだ…
謎の酒蔵
君子:全然見つからないよ、どうしよう?
無剣:はぁぁ…花雨は、何か見つけた?
花雨:いえ…何も。
君子:お姉さん…
無剣:君子、慌てないで。きっと大丈夫だから。案外淑女さんはもう帰ってきているかもしれないよ。
君子:はぁ…僕は情けない弟だな。姉さんはあれほど世話を焼いてくれているのに。
谷に帰る途中、君子は今まで姉がどう彼の面倒を見ており、そして自分がいかに姉の期待を裏切ってきたのかの話などを延々と続けていた…
無剣:君子、そう思いつめるのはやめなさい。あなたの姉さんは…
花雨:ということは、淑女はいつでも君子のことを思っているの?
君子:確かに姉さんには世話になったけど、まぁ…それほど…でも…
花雨:なら君子もずっと姉さんのことを思ってるの?
君子:お…おれ…、俺はただ、姉さんに恩を返したいだけで…
無剣:花雨、どうしたの?
花雨:自分の部屋は探したの?
君子:昨日一度帰ったが、その時は何も!
花雨:あるよ。
無剣:花雨、つまりこういうこと?淑女はちゃんと君子の部屋に書置きを残していったけれど、外で姉を探し回っていた君子は自分の部屋をちゃんと見ておらず逆に気がつかなかったと?
花雨:そう思うよ。
君子:本当?
花雨:十中八九ね。
花雨の言葉に君子は元気を取り戻し、そして一刻も早く自分の部屋に向かわんとしたとき、突如、大勢の魍魎が現れた。それらを率いているのはなんとまた擲乾坤だった。
無尽の魍魎
花雨:何度でも、何体でも殺せばいいよ。
佳人の行方
君子の机の下から一枚の唐紙が見つかった。筆跡は乱れており、どうやら風に吹かれて机から落ちてしまっていたようだ。
君子:本当にあったぞ!
君子:花雨、ありがとう!
花雨:とりあえず中身を見よう。
紙を広い内容を見てみると、案の定淑女が書いたものだった、そこにはみつからなかった酒蔵の位置が記されていた。
君子:感謝するよ。俺は今すぐ姉の元に向かう!
無剣:君子、まって、みんな一緒に行こう!
花雨:私も。
君子:よし、なら一緒に行こう!
花雨:待って、誰か後をつけてる!
無剣:誰!?
急いで振り返ると、追跡者の姿は紅綾であった。花雨が銀針で彼女の退路を妨げ、それに続いて私たちは追いかけた…
積年の美酒
無剣:どうする?
君子:姉さんを助けに行くに決まってるだろう。
花雨:酒の香りがする。たぶんこの近くからよ。
無剣:なら行きましょう!
二人は私の言葉に頷き、そして三人で魍魎の群れに向かって武器を抜いた。
道のない入口
君子:なんだこの魍魎たち、普段のやつよりはるかに強いぞ、どういうことだ?
花雨:さっさと殺そう。
無剣:ええ、やりましょう。
ねむり姫
無剣:花雨、さっき酒の香りがあるって?
花雨:うん、ここが一番においが強いところよ。
君子:姉さーん!姉さーん!
君子の叫びに答える者はいなかった。これは手も足も出ないなと思っている私とは異なり、花雨は地面で何かを探している。
君子:花雨、どうしたの?
花雨:ここ、扉があるかも。
それを聞いた君子と私は顔を見合わせ、花雨に続いて地面を慎重に調べた。そして、ついに隠し扉を見つかった。その扉を開けると、押し寄せてくる酒の匂いと、そして中で寝ている淑女の姿があった。
君子:お姉さん…
君子は慌てて中に飛び込んでいく、花雨はそれを止めようとしたが止められず、そして君子は酒蔵の中へ進んでいく。私は花雨が何故止めようとしたのか分からなかった。
無剣:花雨、何かあったの?
花雨:淑女が眠ってる位置が変だよ。
目を凝らして見ると、確かに妙だった。淑女は酒蔵の真ん中の床で寝ているのだが、周りに開かれた酒があるわけではないようだ。そして、中に入った君子の足元もフラフラになり始めていた。
無剣:君子、一度戻って…この酒の匂い、ちょっとおかしい…
わたしが注意すると、君子はあわてて息を止めた。私と花雨も息を止めながら、二人で君子を酒蔵から引っ張り出した。
匂魂蠍:まさかここを探し出すとは!
無剣:ここで何かしていたのね?
匂魂蠍:そう思いますか?
目覚める姉
花雨:酒…
私たちの話を遮って、君子が大きな声を上げる。
君子:姉さん!姉さんが目を覚ましたぞ!
奇異の美酒
君子:姉さん、だ、大丈夫?
淑女:君子、また大げさな。姉さんは元気ですよ。
私たちは今までの経緯を淑女に説明した。
淑女:なるほど、長年蔵に入れていた美酒が余りにも香ばしいから、こうなったのでしょう!絶情谷の桃花酒、さすがに名高い美酒ですね!
無剣:確かに桃花酒は天下の名酒と聞きますけれど、しかし香りだけでここまで人を酔わせられるとは、驚きました。
淑女:確かにそれは大問題ですね。この酒はどうやって持ち帰ったらいいのでしょう?
君子:俺は姉さんが帰ってくるだけで十分だ。酒はここに置いて行こう!
淑女:君子、それは勿体無いですよ。一緒に持ち帰る方法を考えましょう、ね。
君子:姉さんがそういうなら、では今すぐ持ち帰ろう!
無剣:君子、この酒のにおいは強烈過ぎるわ。何の準備もせずに取りに行くと私のように倒れるだけです。
淑女:はあ、じゃあどうすれば?
花雨:においなら方法はあるよ。
淑女:花雨ちゃん、どういう方法かしら?
花雨:甘草葉の汁をハチミツに混ぜて、薬にして鼻に詰め込むのよ。
しばらくして、花雨の言っていた薬を用意できた…
無剣:この味…
君子:味なんかどうでもいい。役に立てればいい。
淑女:そうね、姉さんも一緒に試してみるわ…
君子:お姉さん…
花雨:みんなで一緒に飲む酒でしょう?
無剣:……
無剣:そうそう、早く酒を外に運びましょう!
花雨が作った薬を使ったところ、酒の香りによって倒れるようなことは起こらなかった。間違いなく、私たちはたくさんの酒を運び出すことに成功した。
花雨:無剣、近くに敵がいるよ!
無剣:私たちで相手をしましょう!
邪魔する者
無剣:心配しないで。淑女と君子は酒の方をお願いね…魍魎たちは私が片づけるから!
淑女:わかった!
美酒は何処に
淑女:すごい量だわ、帰ったら宴ですね。みなさんを呼びましょう。こんな美酒はめったに飲めませんから!
君子:姉さんは飲み過ぎないように…
花雨:さっさと酒を持ち帰りましょう。あの魍魎たち、現れるタイミングがおかしい気がするよ。
無剣:よし!君子、淑女、あなたたちもそれでいい?
淑女:わかった!
急ぎ、私たちは酒を持って谷を進んでいく。
匂魂蠍:その美酒たちは俺たちがいただくぞ!あきらめたまえ!
君子:お前ごときに?姉さん、みていて!
花雨:油断しないの。私たちは酒を守るのよ。
無剣:あいつらは私に任せて!
林中の変事
無剣:花雨、こんなに用心深いのは、酒を飲まれるのを防ぐため?
花雨:違う。
無剣:それは冗談…ただ興味があるの、なんでそんなに酒のことが気になるの?
花雨:何か変よ、あのお酒…
無剣:変なこと?まさか毒でも入っていたり?
花雨:いいえ、毒じゃない。銀針で試したけど、確かに酒だった。
無剣:なら心配しなくても大丈夫ね!それとも…
話の途中で、龍骨がやってきた。
龍骨:無剣。
無剣:龍骨、どうしたの?
龍骨:森の中で問題が起こった。
無剣:何かあったの?
花雨:本当?
龍骨:間違いない。
花雨:うん……
龍骨:うん!
花雨:うん?うん、うん!
龍骨:うん!
花雨:見に行きましょう。
無剣:わたしには全然わからないのだけど?
花雨:難しいことじゃないよ、森のことを聞いていただけ。
龍骨:そうそう…
無剣:それにしても、それでよくわかるわね。
花雨:必要ないことは、喋らないほうがいいから…
龍骨:まぁいいか…
無剣:…
このような独特の雰囲気の中、私たちは無言に歩き続けた。そして途中まで進むと、森で魍魎どもと遭遇した。
花雨:……
龍骨:……
無剣:やるわよ!
群れる魍魎
龍骨:ええ、是非!
無剣:何を言っているの?
花雨:魍魎たちがここに集まってくる。
龍骨:ちょっと力を貸して…
無剣:よし、私がすべて消して見せます。
集まった所
花雨:お疲れ様!
龍骨:どうも。
無剣:お礼は良いよ、魍魎を倒すのが私の役目だったから。それにしても妙に数が多いわね…
花雨:あの場所の近くだから。
龍骨:なに?
無剣:私たちが見つけた酒蔵のこと?
花雨:そう…
奇酒の効果
花雨:やっぱりそうだった。
無剣:花雨、おかしいのはお酒、それとも酒蔵?
花雨:お酒だと思う。
無剣:私もそう思う。酒の香りが魍魎たちを引き寄せたんだ。
花雨:そうだね…。
無剣:少し持ってきて試してみようか?
花雨:それは必要ないと思うよ。
私は疑惑の視線を花雨に投げる。彼女は懐からあの奇妙な汚れがついているだけの紙を取り出した……
無剣:この紙は?兎を見つけたときに拾ったもの?
花雨:うん。この図のことが分かった気がする。
花雨は図に打たれた点を指して説明を始めた。一見何の意味もないただの点に見えるが、実は絶情谷のある地点を示しているものなのだという。そう言われて見直すと、確かに黒い点の一つは、酒を運び出したあの酒蔵の場所と一致しているようだった。
無剣:まさか、この点がすべて酒蔵なの?
花雨:そうよ。そして、匂魂蠍たちの目的もこれだと思う。
無剣:やつらの目的もお酒?
花雨:そうみたいだね・
無剣:そうだよね。酒の香りで魍魎を操ることが出来るのなら、その力で自分の陣営に引き込むことができる。 そうやって各地に残っている野良の魍魎たちを集めるつもりなのね。
花雨:行こう。これで残る問題はたった一つ。
無剣:一つって?
私の問いかけには答えず、まるで聞こえていないかのように、花雨は何かを思案しながら歩きだした。図に書かれた一番近い点の方角のようであった。
間もなく渡した隊は点が示した場所に着いた。やはりその場所にはすでに魍魎たちが集まっている。
強烈な香気
花雨:うん。
無剣:こうなったらみんなを呼び出して酒を運び出しましょう、匂魂蠍たちに残すわけにもいかないし。
花雨:わかった!
みんなはすぐに集まり、そしてすべての酒を谷の中の酒蔵に運ぶことに協力してくれた。
君子:この酒ってそんな効果もあるのか!?
淑女:死人も惚れ惚れの美酒、確かに一味違います。
君子:お姉ちゃん!
花雨:あと四箇所。
無剣:うん、そうだね、早く残りの酒蔵からも回収しちゃおう。
酒の魅力
九曲:飲酒はいいことではありませんよ。
淑女:はあ、酒を飲まない君には酒の良さが分からないわ!特に美酒の良さをね!
花雨:美酒はいいが、美酒を欲しがる者が多すぎる……
淑女:どういう意味かしら?
花雨:今、谷の酒蔵には君子しかいないでしょう?
淑女:そうそう…
花雨:早く戻りましょう。
淑女:それはつまり、君ちゃんに……?
花雨:うん!
私たちは大急ぎで谷へ折り返したが、と夕でまた酒を奪おうとする擲乾坤と遭遇してしまった。これは戦いを避けられそうにない……
流水美酒
君子:お姉ちゃん、僕は大丈夫!
淑女:これで、わたくしたちの君ちゃんも一人前になりましたね!
君子:お姉さん…
無剣:う…花雨、このお酒をずっと谷の酒蔵に置いておくのはよくないわよね?
静かに立っている花雨を見て、私はそっと話しかけた。
花雨:最善の策は処分することよ。
無剣:壊す?
花雨:簡単だけど、有効。
無剣:けど、このお酒を処分するのも簡単なことじゃないと思うな…まだこのお酒を奪おうとする人もいるし……
この酒は魍魎を引き寄せる効果がある上、溢れるほどの香りがある。そのためヘタに処理しようとすれば大量の魍魎が集まり、新しい災いを起こしてしまう恐れがあった。
花雨:ええ、でも私にはちょっとした考えがあるの。
九曲:誰かいるぞ。
叫び声を聞いて、私たちはそれを追いかけた。谷の中に現れたのは赤血蓮だった……
私たちの姿を見るなり、赤血は素は急いで壁を登って逃げだした。その動きは機敏で、捕まえることはできなかった。
花雨:逃がした?
無剣:うん、逃げられたけど…特に何も壊されていないね。
花雨:彼の目的は書斎かしら?
君子:花雨、なんで分かるの?
花雨:ただの推測よ。
淑女:早く見に行きましょう。
無剣:うん、見に行こう。
書斎に着くや否や、変わったところがないか探し始めてみた。そこで一冊の古本が見つかった。その本によると、古い情花酒は強烈だが、大量の水で酒を薄めると、通常の酒として飲めるとのことだった……
無剣:これ、この方法でどうにかならないかな?
九曲:聞いたことがないな……
君子:お姉ちゃんは聞いたことがありますか。
淑女:分かりませんが…こんないい酒を捨てるなんてもったいない……
君子:お姉ちゃん、この酒は魍魎を呼び寄せる上に、奪って利用しようとしているやつがいる。捨てたほうがいいです!
無剣:君子の話に一理あるけれど、花雨、どう思う?
花雨:私は賛成。谷に流れ込んでいる水はそのまま海へと流れていくので、私たちに害を及ばすことなく魍魎たちを海へと誘導できますし、水に流すことで酒も処理できます。
無剣:よし、では行きましょう!
花雨:酒を流すことで大量の魍魎を呼び寄せる可能性や、誰かが襲ってくる可能性もある。だから慎重に準備しましょう。
淑女:花雨ちゃん、心配しないで…きっとうまくいくから!もったいないけど……
君子:お姉ちゃん、お酒のことだけど、実はちょっとだけ部屋に残してあるんです。
淑女:本当ですか?君ちゃん……わたくし……でもなんで言ってしまったの。
無剣:大丈夫、帰ったら私がお酒の相手をするから。
淑女:なら良かった、それでは出発しましょう!
私たちは川沿いに着くや、酒を川に流した。すぐに魍魎がいくらか集まってきたが、それに動じることはなかった……なぜなら、それはまだ大物と呼べるものではなかったから。そして花雨の想定した通り、冥狼爪と奪魂蠍が忍び寄り襲い掛かってきた。
不退転の決意
花雨:油断しちゃだめ!
その言葉通り、戦闘の様子を窺って、冥狼爪と匂魂蠍が再び襲ってきた。
黄雀の正体
花雨:まだよ!
淑女:なに?
無剣:どうしたの?
花雨:下流で誰かが酒を集めている!
無剣:本当?
花雨は頷き、私たちは急いで下流へと移動した。するとやはりというべきか、酒を回収している赤血蓮に遭遇し、見過ごすわけにもいかずそのまま一戦を交えた…
東流入海
赤血蓮が集めた酒を再び川に流した後、私は花雨にそう尋ねた。
花雨:多分もういないと思う。二度も流された以上、もう回収は無理よ。
無剣:しかし、結局今回の件は何だったのかしら?
花雨:誰かが私たちに酒を探すように仕向けたような……
無剣:それは誰だと思う?
花雨は首を横に振った。彼女にも思い当たる節はないようだ。
君子:無剣、なにをしているの?早く行こう!
淑女:早くしないと、残りの酒は全部わたくしに飲み干されてしまいますわ。
無剣:ちょっと、私の分も残してね、まだ味見もしてないんだから!
無剣:花雨、いこう。みんな待ってるよ!
すべてが解決した後、皆で楽しい時間を過ごした。その夜に催した宴は格別で、特に花雨の顔には笑みが溢れていた。もちろん、それは素面でなく、お酒を何杯も飲んだ後のことだけれど…。その光景を見ながら私は心の中で、もう少しくらいは積年の美酒を残しておいてもよかったかなと、ぼんやりと思った…。
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