第九章 無名山頂

 
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第九章 無名山頂

三絶の言葉に従い、山道に沿って山頂へ向かった。
徐々に、山道が険しくなってきた。
くねくねと曲がりくねってて、巨大な岩が道を塞いでいる。

無剣:あれ……ここはさっきも通ったような気が……

もしかして道を間違えた?
何だかずっと同じところを歩いているような……
目の前に薄い霧が広がってきて、嫌な予感がする。

幻影水兵:開……休……生……傷……

人影が目の前に現れた。その目は虚ろで、全身が水流に巻き付かれているようだ……

無剣:これは……!
幻影水兵:杜……景……死……驚……

薄い霧に隠れながら、水兵たちは巨石の間を蠢いている。
どの方向へ進んでも水兵たちからの攻撃は避けられない。


奇門遁甲

寒風がごうごうと吹いている中、無名山の崖の上では六爻が静かにこちらを見下ろしている……
霧も濃くなり、周囲には湿気が立ち込めた。
巨大な岩岩を巧みに利用し、水兵たちは幻影のように動いている。
六爻は顔を曇らせ、冷たく暗い目をしている。

六爻:フフフフフフ……剣塚の主か?その称号、実力に相応しいかどうかは……
六爻:俺のこの陣を破れる者はなかなかいないぞ!

寒風は猛威を振るい、霧を巻いて麓を襲っていく――

六爻:剣魔にこの画境の守護を任されたが、それはこの人物を困らせるためなのか。

目に少し光が戻り、六爻はまた考え込んだ……

六爻:もし画境にやってきたこの人物を傷つけたら、誰が五剣の境を守るのだろうか。
六爻:フフフフフフ……しかし俺の幻影水平も破れないようなら、剣魔の遺志を継ぐなど言語道断!

六爻は刻々と表情を変えつつも、水兵たちは依然として、陣法の通りに動いている。

無剣:この水兵たち、神出鬼没で厄介ね。

谷に聳え立つ巨石と目の前に立ち込める濃い霧に邪魔され、水兵たちの動きを予測できない。

幻影水兵:間……休……生……傷……
無剣:(彼らの言葉には、一体何の意味があるの?)
   (どこかで聞いたような気が……)
幻影水兵:杜……景……死……驚……
無剣:(まさか奇門遁甲の八門?!いつだったか玉簫に教えてもらったことがある……)
   (開、休、生三吉門、死、驚、傷三凶門、杜門景門中平……)

玉簫に教わった口訣を暗誦しながら、八卦鏡が導く方向へと進む。
次第に周囲の霧は晴れ、水兵たちは姿を隠すことが出来なくなり、次々と攻めてきた――


晴曇不定

水兵たちの攻撃を退き、そうやく谷間を抜けた。
目の前の山道が突然開けて、岩も霧も消えてなくなった。
倒された水兵たちは水煙と化し、風の中に消えていった。

???:予想外だな…まさか俺の幻影八陣を破るとは…

冷たい声と共に、何者かが私の前に現れた。

???:君が……剣塚の主だな?五剣の境を救う人物か?
無剣:そうだけど、あなたは……?
???:フフフフフ…
???:俺の名を知りいのなら、まずは俺を倒してみろ……

回りの空気は突然冷たくなり、彼の手から飛んできた駒が、強風とともに私を襲ってきた。


浮ぶ微笑み

???:俺が…まさか…負けるとは…

その言葉と共に顔の曇りが一気に消え、笑顔を見せてくれた。

六爻:御機嫌よう、俺は六爻、剣塚の主よ、待ちくたびれておったぞ。
無剣:これはいったい……?
無剣:(さっきまでとても怖い様子だったけど、今はまるで別人ね……)

六爻は私の思っていることを見抜いたように、微笑みながら私に言った。

六爻:普段から囲碁に夢中でな。
   俺は碁盤の上では、経緯縦横、森羅万象を洞察することができる。
   しかし、互角の対局相手になかなか出会えず、仕方なく自分と対局するしかなかったのだ。
六爻:長いことこんなことをしていたら、人格を二つに分けられるようになったな。
   一人は極悪非道で手段を択ばない自分、もう一方は敬悌愛仁で、不変にて万変に応ずる自分、となったのだ。
無剣:なるほど……
無剣:あなたに操られた水兵は、どこから来たの?
六爻:画境に隠遁する前、俺は軍師として、ある水軍部督に仕えていた。当時は布陣練兵に明け暮れていたものだ。
六爻:ただ…その後…

六爻は少し辛い表情を見せ、これ以上話したくないようだった。

六爻:昔のことだ、忘れてくれ。
   今日君にここで出会ったということは……すでに四弟と三弟に会ったのだろう。
無剣:そうよ、千丈三絶の試練は突破したわ。
六爻:先ほどの一局負けはしたが、俺の試練はまだ終わってはいないぞ。

試練はまだ続くの……?!


止まらぬ風波

六爻:俺の武器は碁石だ。後には黒石と白石があり、攻守において技が異なる。
   君が今から受ける試練も、それに通ずるものがある。
六爻:先ほど君が破った敵だが、あれは俺の中の黒石だ。
   これから君に向き合ってもらうのは、俺の中の白石だ。
無剣:……
無剣:(六爻の試練は二回もあるなんて……)
   (白石の出方は黒石とは違うはず。気をつけないと。)

六爻は手の中の石を軽くひねり、口元には微かな笑みを浮かべている。

六爻:準備ができたのなら、白石の試練を受けてもらおう。


山海の洪涛

さきほどまでと違い、六爻の技は研ぎ澄まされ、一つ一つが猛々しい。
少し手を交わしたあと、六爻の攻撃を防ぎ彼を退けた。

六爻:さすがだな…参った。
六爻:碁盤は千変万化。
   亡陣に残り、死陣に生きる。
   黒石が技を出す時はいつも致命的な一手のはずだが、君は軽々と下りた。
六爻:そして白石は変化を求めず、地に足を付けた指し方をするが、それも破られた…。

どうやって技を退けたのかわからないようで、六爻は不思議そうに私を見ている。

無剣:六爻、あなたの技は、クロガネと少し似ている の。
   重剣の理は、力を極限まで溜めることで、技の効果が十倍になるのよ。

六爻:重剣の理……昔剣魔に武術を教わったとき、そう言っていた。
無剣:知っていたようね。

六爻は考え込むように頷いた。

六爻:では、君はどうやって俺の技を捌いたのだ?
無剣:あなたの技がとめどなく流れ落ちる山津波なら、私の技は四方八方から逆巻く潮。
無剣:山津波が潮に突き進むとき、その勢いは大幅に弱くなり、潮と一体化してしまう。
六爻:山津波…潮…

彼は少しうつむいて、考え込んでいる。

無剣:あなたの試練はこれで終わりかしら?

六爻が顔を上げ、私に頷いてくれた。

六爻:先ほどの一陣、碁盤の上なら、俺の軍隊は全滅しただろう。
   俺がもっとも尊敬するのは、囲碁の技量が俺より上の人物、そして武学も然り。
六爻:剣魔の遺志を継ぎ、画境の守護者となった理由の一つが、剣魔が強かったから。
   そしてもう一つ、彼の目指すところが、俺と同じだったからだ。
六爻:今日君との一戦では、学ぶところが多かった。君の打ち方は、剣魔の面影を残しながらも違うものだった。
   君もまた、剣魔の遺志を果たそうとしているなら…
六爻:君に従い、策士として策を弄し、五剣の境を救う手助けをさせてほしい。
無剣:策士……として?

六爻の非道な一面を思うと、少し迷う……

六爻:もし君が、俺の人格が不安定だと案ずるなら、心配する必要はない。
   俺は昔から願いを叶えるためなら、どのような方法を取ろうと、たとえ陰謀、陽謀であれ、達成できれば良いと思っていた。
六爻:しかし、君に従うと決めた以上、どんな時も、君の意思を尊重することを約束する。

六爻は、迷いのない真剣な眼差しで私を見ていた。

無剣:……分かったわ。
六爻:ははは、君のような人物に仕えることができるなんて、とんでもなく光栄だ。
六爻:しかし、隠者の長巻における試練はまだ残っている。
   大兄がこの先で君を待っている。

どこからか琴の音が聞こえる……その音色はまるで雪山の泉のように、澄んでいるがどこか冷たく感じた。

無剣:この楽器は……古琴と似ているが、どこか違う。
六爻:箜篌(くご)だ。
六爻:この谷を抜け、山が最も険しい方向に向かって進めば、大兄に会えるだろう。

しばらくためらって、ゆっくり口を開いた。

六爻:主人よ、覚えておくのだ……。忘れるでないぞ、主人がここに来た目的を。
無剣:六爻……?
六爻:これ以上は話せん。必ず覚えておくのだぞ。
無剣:分かった。ありがとう。

私は六爻にお礼を言うと、箜篌の音を辿り、霧が立ち込める谷を後にした……


鏡花水月

無名山の最も険しい断崖絶壁の上、
上へ上へと登っていくほどに、箜篌の音がはっきり聞こえる。
先ほどの谷と違って、ここは地形こそ険しいが、草木が生い茂り、蝶々が舞っている……

???:鏡中の月、水中の花…
無剣:この声は?

それは夢幻のようだった。幽かな唄声が箜篌の音色に巻きつかれ、薄紗の後ろに隠れている……

???:水中の花……鏡中の月……

目の前の草木は一層すがすがしく、花の色はさらに艶やかになり、馥郁たる香りが漂ってきた――

無剣:(だんだんまぶたが重く……)
   (もしや箜篌の音は、人を酔わせる効果があるの)

考える間もなく、意識が朦朧としてくる……
……
ここはどこ……?どのくらい寝ていたのだろう……

???:無剣、貴方…
無剣:(そこにいるのはだれ……?)(私は……誰なの?)

ふと目を開けると、眩しい光が見えた。
庭と思しき場所に水が溜まっており、その上に豪邸のような精巧な家が建っている。

???:目は覚めましたか?
無剣:あなた……は?

目の前に立っている男は華麗な服を身に纏い、端麗な容姿を有している。
ややつり上がった目には、異様な輝きを放っている。

幽谷:わたくしは幽谷
   君の主です。
無剣:幽谷?主……?
幽谷:ええ。
   無剣、君がどれほどの間寝込んでいたか知っていますか?
無剣:わ……分からない。
   無剣って呼んだけれど、それが……私の名前?
幽谷:はあ、君は、わたくしを守るために重傷を負いました。
   外傷はほぼ治りましたが、昔のことを覚えていないようですね。
無剣:あなたを……守った?
幽谷:ええ、その通りです。
   君はわたくしの従者ですから、何時もわたくしに従い、わたくしの身の安全を守るのが当たり前のことなのです。

何か違うような気がしたけれど、何も言えなかった。
昔のことを思い出そうとすると、頭が真っ白になる。

無剣:私は……無剣、あなたの従者。
   あなたは、私の主?

幽谷は満足そうに頷き、私を褒めるように視線をくれた。

幽谷:覚えておいてください……君はわたくしのもの。
   いかなる時も、いかなる場でも、わたくしのものです。

そう言うと、とても優しく私を起こしてくれた。

幽谷:忘れないで。わたくし以外、誰も信用してはいけませんよ。
無剣:……はい。
無剣:ご主人様?あなたをどうやって守ればいいのでしょうか。
幽谷:ふふ、この庭園には厄介なものがたくさん集まってきています。
   掃除をお願いできますか?
無剣:かしこまりました。仰せのままに。


旦夕の間

???:起きて……起きて!!
???:危ない!
無剣:誰?!ここは……どこ?どうしてこんなに荒れ果てているの……
???:早く行けっ!
無剣:行く?どこに?私のご主人様は?さっきまで隣にいたのに……
???:追う!

頭の中に騒音が鳴り響いた。激痛に襲われ、頭が切り裂かれそうだ。

幽谷:ふふ……無剣、ここにいたのですね。
無剣:ご主人さま、ここはどこですか。あの人たちは?
幽谷:あの人たち?
無剣:ええ。私に向かって叫ぶんです。目を覚ませ、早く行けって。
幽谷:ほぉ?

彼は少し驚いたように目が泳いだが、すぐに落ち着きを取り戻した。

幽谷:あの人たちは、わたくしを追っているのです。
幽谷:君は従者として、どうするべきですか?
無剣:ご主人さまを守るために万全を尽くします……
幽谷:ふふふ…聡明ですね。さすがです。

愛しそうに私を見つめ、優しい視線を注いでくれた。

幽谷:奴らを殺しなさい。一人たりとも逃してはなりません。

優しさは一瞬で消え、冷たい口調で命令を下した。

無剣:分 か り ま し た 。


夢は夢の如く

穏やかで暖かい風に包まれ、目の前は彩色を施した華やかな建物と澄んだ水色が広まる池になった……

無剣:ご主人さまの家に戻った?さっきまで荒れ果てた雪原にいたのに。
幽谷:ふふ、ただの夢ですよ。
無剣:夢?
幽谷浮生が夢であれば、夢であっても夢に非ず。浮生は何の如くか?夢に似た夢の如く。
無剣:では……ご主人さまはどんな夢を見たんですか?夢の中はどんな景色でしたか?
幽谷:うむ…すごく長い夢でした。聞きたいのですか?

私が頷くと、彼は軽く溜息をつき、箜篌を撫でながらゆっくりと語りはじめた……

幽谷:昔々、河東の知州に子供が一人いました。
   男子でありながら、その美しさは女にも見劣りしませんでした。
幽谷:その子は幼い頃から聡明で、優れた才知を持ち、とりわけ、音楽に関しては誰も及ばないほどの才能がありました。
幽谷:その子が十五になった年、戦況が不利になったため、彼は父親に講和のしるしとして人質になって敵国に送り出されました。
幽谷:しかし運悪く、敵国に送られる道中に一行は山賊に襲われました。
   彼は最愛の楽器を抱え、崖から落ちて、生死不明になったのです……
無剣:なんてひどい!
幽谷:ふふ、ただの夢です。なぜそんなに怒っているのですか?
無剣:夢の話なのに、なんだか自分のことのように、その人の苦しさを感じて……感情移入してしまいました。
幽谷:ほぉ?

彼は興味深そうに私を見つめ、彼の目の中に潜む異様な輝きはさらに光を増した……


突如の乱心

こんな日々が、どれくらい続いたのだろうか……
毎日幽谷の隣で過ごした。彼を守り、琴の華やかな旋律に耳を傾ける。そして美しい夢の話を聞いた。
だが、頭の中にひりひりと感じる痛み、そして心の中に湧き上がる炎は、払いのけることはできなかった。

幽谷:この曲、如何ですか?
無剣:心に響く音、余韻があたりに漂います。

幽谷箜篌はにっこりと笑って、じいっと私を見つめている。
微かな月の光が彼の髪に降り注ぎ、その様子をぼんやり眺めていると彼の首の模様に気がついた。

無剣:これは……月下美人?
幽谷:おお、この袖に縫われた花紋を知っているのですか?
無剣:いえ、その首の……

彼は突然顔を上げ、手でその模様を隠した。顔にはわずかに怒りが感じられた。

無剣:なぜ隠すの?とてもきれいなのに。
幽谷:……

彼は少しためらったが、しばらくしてやっと手を下ろし、優しい表情に戻った。

無剣:首に描かれている月下美人は、何か特別な意味があるの?
幽谷:……傷を隠すためです。
無剣:傷?
幽谷:うん。
無剣:私が…守れなかったの?
幽谷:これ以上の詮索は無用です。
   この話はここまでにしましょう。

月の光が幽谷の腕の中にある箜篌を映し出した。
その曲木には浅いひびがあり、装飾彫刻の中で見え隠れしている。

無剣:ねぇ……
無剣:(昔の傷……箜篌の曲木のひび……)
幽谷:昔々、河東の知州に子供が一人いました。
   男子でありながら、その美しさは女にも見劣りしませんでした。
幽谷:その子は幼い頃から聡明で、優れた才知を持ち、とりわけ、音楽に関しては誰も及ばないほどの才能がありました。
幽谷:その子が十五になった年、戦況が不利になったため、彼は父親に講和のしるしとして人質になって敵国に送り出されました。
幽谷:しかし運悪く、敵国に送られる道中に一行は山賊に襲われました。
   彼は最愛の楽器を抱え、崖から落ち、生死不明になった……
無剣:(容姿は女にも劣らない……音楽において誰も及ばない才能を持つ……)
   (愛する楽器を抱いて、崖の下へ落ちた……)
無剣:(まさか幽谷が知州の子?)
   (あの夢すべて、彼が実際に遭ったことなの?)

私の心が震えて、思いが千々に乱れた。幽谷の後ろ姿を見て、それが勘違いではないと悟る。

無剣:幽谷……
幽谷:うん?どうしましたか?
無剣:あなたが話してくれた地州の子の夢の話、続きはあるの?
幽谷:……
幽谷:本当に聞きたいのですか。
無剣:うん。
幽谷:あれから幾年の月日が流れ、河東一帯に何件もの一家虐殺事件が起きました。
幽谷:犯人は音を武器にして、聴く者を惑わし、発狂させ、最終的に自害させました。老若男女、例外なく。

幽谷の顔が暗くなる。

幽谷:このような結末、満足できましたか。
無剣:……
幽谷:ふふふふふ…
幽谷:それだけではありませんよ。彼をおもちゃにした敵国の将兵も、そして彼を崖まで追い詰めた山賊も!
幽谷:一人たりとも、音の蹂躙から逃れられなかった…

幽谷の声が鋭く尖る。目が充血し、手は震えている。

無剣:あなたのことなの?

幽谷は少し固まって、殺意に満ちた視線はだんだん私に移った。

無剣:悪徒を排除するのは分かるけれど、
   なぜ城にいるすべての人を殺すの?
無剣:老人、女性、子供に罪はない。あなたが経験したことと、何の関係もないのよ。
幽谷:ふ…彼らが無実ですって?
幽谷:崖から落ち、一人ぼっちで食べ物もなく、恐怖に駆られたというのに、誰も探してくれませんでした。
幽谷:その後、名を隠して何年もの流浪に耐え、再び故郷に戻ったとき…
幽谷:家人の誰もがわたくしの名前を呼ばず、城の上下に至るまで誰一人として、わたくしを気遣う様子はなかった!
幽谷:奴らは不義不忠の輩です、それが無実であるはずがありません!
無剣:ねぇ……

幽谷の顔が歪んで、瞳に炎が燃え盛っている。全身が狂ったみたいだ。
回りのすべてが激しく震え始めて、幾千の光景が一瞬で頭の中を駆け抜けた。

青蓮:長風(ちょうふう)波を破るに必ず時あり、直ちに雲帆(うんぱん)を駆けて滄海(そうかい)を渡らん!
工部:この沈んだ世の中では、魍魎が徘徊し、人心が失われています。
   僕の命が終わるまでに、抱負を抱けるような機会に、また巡り合えるかどうかわかりません。

青蓮工部の笑顔と笑い声は、まだ目的を達成していないことを教えてくれた。

無剣:(主人よ、覚えておくのだ…。忘れるでないぞ、主人がここに来た目的を。)
   (これは…誰の声?)
無剣:いや……ここは私の居場所じゃない。
   私を……出して!


過去の印

耳をつんざくような琴の音とともに、幽谷の心魔はとうとう敗れた。
幻境が作り上げた物すべて、灰の如く崩れていく。
目の前にあるのは楼閣、金殿玉楼じゃなく、絵の具の匂いがする絵の世界に戻った。

幽谷:なぜわたくしが組み上げた幻を壊すのですか?私と共にいることで君に不自由はさせないというのに?
幽谷:この醜い現世、兎死して狗食われる。役に立った者も務めを果たしたら捨てられる。人の心ほど険悪なものはありません。君はなぜ捨てられないのですか?!
無剣:私が背負っているのは、五剣の境を救う責任です。
無剣:我が主剣魔の遺志であり、この世の安泰を守る願いでもあるのです。
幽谷:ふふふ…剣魔…
幽谷:人命を雑草のように踏みつけ、無数の人を殺めたにも拘らず、剣魔はこのわたくしに画境を守護するようにと託しました。
幽谷:だというのに、君はわたくしのやり方に不満があると?
無剣:我が主である剣魔がそう託したことには、きっとそれなりの理由があるはず。
   そして私自身の意志でもある。
幽谷:ふん…君の意志?ふふふ…
幽谷:わかりました。五剣の境を修復する神器がそんなに欲しいのであれば、わたくしの試練を突破してみなさい。
無剣:あなたの試練?じゃあ今さっきのは……?
幽谷:ふ、あれがはわたくしが作り上げた幻に過ぎません。
   今君の目の前にいるわたくしこそが、相対すべき相手ですよ!

幽谷の目に宿っていた怒りが悲しみに代わり、口調も柔らかくなった……

幽谷:こんな時でさえ、わたくしは君を傷つけたくありません。
   無剣、もし君と一緒にいられるのなら、五剣の境が滅びても、わたくしには関わり無きこと。
幽谷:渾沌たる現世を離れ、幻境の中で束縛されず、自由気ままに生きる。そのほうがずっと幸せではないのですか?
無剣:……
幽谷:この度の試練、もしわたくしを破れなかったならば、遺志などを忘れ、共に画境で隠居しましょう。
幽谷:君をだまそうとしているわけではありません。この先の道のりはまさに千荊万針、ただただ、君を守りたい一心ゆえ。
無剣:私はたくさんのものを背負っている。怯むわけにはいきません。
   幽谷、かっかてきなさい!


山頂の人

幽谷の実力は木剣に匹敵するほど、相当手ごわい。
私は無形剣気を放ち、幾度か切先を交えたあと、辛うじて彼を破った。

無剣:お見事でした。
幽谷:…き…君…
幽谷:君が画境を訪れた時から、君の一挙手一投足をつぶさに見てきました。君がここに来るのを待っていました。
幽谷:剣魔の境地を敬慕しましたが、君と共に生死を共にすることも渇望していました。
剣魔がこの世を去った後、わたくしにとって君が唯一の存在意義となったのです。
無剣:幽谷、五剣の境を一緒に救ってくれませんか?
無剣:幻境の華やかさに溺れるのはいや。私は五剣の境を救いたいんです。

幽谷はだんだんうつむいて、眼から光が消えた。

無剣:私は全ての試練を通過しました。あなたたちが守っているものは何か、教えてくれますか?

しばらくして、幽谷は口を開いた。

幽谷:……山頂です。
無剣:山頂?
幽谷:はい、あの方が君を待っています。わたくしが言えるのは、ここまで。

幽谷は顔を上げて、静かに私を見ている。

幽谷:わたくしは千丈三絶六爻を呼び集めてから山頂に赴きます。
幽谷:行きなさい、宿命の人よ。
   果たしなさい……君の使命を。
無剣:わかりました。さようなら……

私は幽谷と別れ、無名山の山頂に向かった。
背後から幽谷の琴の音が聞こえてくる……その音色はまるで、泣いているように切なかった。


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通常物語

物語本編
  1. 氷火島
  2. 崑崙山
  3. 桃花島
  4. 古墓
  5. 絶情谷
  6. 剣塚 (3コメ)
  7. 重陽宮
  8. 無名山中
  9. 無名山頂 (2コメ)
  10. 雲頂剣台 ※未実装
  11. 朱雀の陣 ※未実装

悪夢

通常物語より難しいクエスト
  1. 氷火島
  2. 崑崙山
  3. 桃花島
  4. 古墓
  5. 絶情谷
  6. 剣塚
  7. 重陽宮
  8. 無名山中 (1コメ)
  9. 無名山頂 (6コメ)
  10. 雲頂剣台? ※未実装
  11. 朱雀の陣? ※未実装

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