緑 仲合、同盟会話
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仲合物語
丐幇の名料理
私たちは、いまだ辺境の地を歩き続けている。
体力は限界に達していた。
しかし、最寄りの町までまだほど遠い。
みんな空腹を我慢して、歩く速度を上げている。
その沈黙が、余計に疲労を感じさせられる。
緑:ああ腹減った!腹が減って動けない!
ていうか、君たちは腹が減ってないの!?
無剣:減ってるにきまってるじゃない。
でもこんな所に食べ物なんて、あるわけないでしょう?
緑:はぁ、それもそうだな……
あ、あそこに小屋がある!
緑:そうだ!あそこで食材を分けてもらおう!
無剣:あそこで?
緑:みんな、ここで少し休んでて。すぐに戻るから!
そして、緑はそう遠くない農家まで歩いていった。
そして緑は、見つけた小屋に向かった。
緑:はは、これで腹ごしらえが出来る!
無剣、ちょっと手伝って!
無剣:え…でも私、料理は……
緑:大丈夫、君は地面に穴を掘ってくれたらいいさ。
倚天さんは水を汲んできてください。
金鈴っちは薪を拾ってきてね。
みんなが動き出す。
私は指示通りに穴を掘りながら、下ごしらえをしている緑を見た。
しばらくすると、泥の塊が黒焦げになってきた。
無剣:これ……どうやって食べるの?
緑:任せろって!
緑は自信満々に言うと、焦げた泥の塊を地面にぶつけた。
鶏の毛が泥と一緒に剥がれ落ち、辺りに美味しそうな匂いが漂い始めた。
無剣:あっ……!
緑:ふふん!出来立て叫化鶏を召し上がれ!
緑は叫化鶏をみんなに分けていく。
分けてもらった鶏ももをかじった瞬間、香りが口の中に広がっていく。
無剣:おいしい!
緑は料理が上手なのね!
緑:このくらい簡単さ!得意料理はまだまだあるんだ。
街に着いて食材が揃ったら、もっと美味しいものをご馳走するよ!
無剣:本当?ありがとう!
緑:…と言っても、正直俺の腕はまだまださ。
世の中には沢山の美食がある。
江湖を渡り歩き、全てを食べつくすのもいいな。
緑:たとえば臨安皇宮の御膳、
鴛鴦の五珍燴や茘枝の白腰子、
鶉子羹、羊舌籤、姜酢の香螺、牡蠣の醸羊胃……
緑:それから中部の点心に、王邸の酒粕魚、酸辣とか…
無剣:後宮や王邸の料理も食べたことがあるのね。
本当に天下の美食を万遍なく食べたんだ。
緑:ん?ああ、そりゃあ!
でも天下には数えきれない美食があって、
「万遍なく」にはまだ程遠いさ。
緑:無剣は興味津々だね。
やっぱり俺たち気が合うんだよ!
無剣:元々は食べ物に拘りはなかったのだけど、
今は少し興味が沸いてきたかな。
緑:はは、それは良かった!
どうせ剣塚までは長いんだし、道中美味しい料理を食べて楽しもう!
無剣:約束ね?
私たちは笑顔で美食の旅への約束を交わした。
雪山の珍味
緑だけどこかへ出かけようとしている。
私は心配になって、緑の後をつける事にした。
道を曲がったところで、
彼は三つの大きな石で簡単なかまどを作り上げる。
小包から小さなお鍋を取り出すと、鍋の中に雪をいれ、
何本かの薪を使いかまどに火をつけた。
少しずつ鍋の中の雪が解け始め、緑はその間雪を掘っている。
しばらくすると何やら黒いものを掘り上げていた。
その一方、鍋の中の雪は完全に融け、沸騰し始めている。
無剣:緑、何をしているの?
緑:うわ!無剣?
びっくりした……!
緑:知りたい?へへ~。
その前に目をつぶってて。覗いたらダメだぞ!
無剣:え……分かった。
私は言われるまま目をつぶった。
緑が何かをお鍋に入れて煮立てているらしく、
お湯を捨てる音、そして「ジュワー」という音と共に異様な香りが広がり始める。
好奇心に耐え切れず、少しだけ目を開けた。
視界には二本の枝を箸代わりにして、
お鍋に入っているものをかきまわす緑の姿が映っている。
不意に彼が顔を上げ、私と目が合ってしまった。
緑:おいおいおい、覗いちゃダメだって!
お仕置きするよ!
無剣:お、お仕置き?お仕置きって、あ……
喋っている間に、口の中に何かを放り込まれた。
淡い香りと濃厚な甘さが、たちまち口の中に広がっていく。
揚げ物ならではの歯ごたえも抜群だ。
無剣:これは?
緑:へへ~、美味いだろ?もう一つ食べるか?
無剣:食べる……
ねぇ、これは何なの?教えて!
緑:え、えっと……
緑:これは……やっぱりいいよ、元々毒があったものだから、びっくりさせたくないし。
無剣:ど、毒?
驚くものの、言われてみると後味に奇妙な香りが漂い、
違和感を感じさせた。
緑:大丈夫。
ちゃんと熱湯で煮立てて二回も洗っているし、
毒はなくなってるさ!
緑:それに、毒だってたまには役に立つんだ。
江湖に着いた時にあまり頭が固いと、この先大変だぞ。
覚えておこうな!
突然江湖での世渡りの話を説いてきた緑に、私は呆気に取られた。
緑:へへ、まぁ、あまり心配するなよ。
俺がついてるし!
無剣:え?うん……ありがとう、緑。
緑:お礼なんかいらないって。
俺と無剣の仲じゃないか!
あ、もっと食べるか?
無剣:あなたは全然食べてないけど、いいの?
緑:俺はいいよ、好きなら全部あげる。
好きな食べ物があったら遠慮なくいってくれ。
全部作ってやるから!
無剣:緑……
寒林夜話
剣塚。
かつてそこから来たのかもしれない、私たちの旅の目的地。
でも、そこに何があるのか…私には分からなかった。
目を覚ますと、辺りには闇夜が広がっていて、焚火はいつの間にか消えている。
他の皆は眠っていて、誰も私が起きている事には気付かない。
夢の中に出た剣塚に悩まされ、
夜風に当たろうと、私は静かに立ち上がった。
歩いていると、後ろから「ササ」という音が聞こえた。
まさか魍魎?
そう思い素早く振り向くと、見覚えのある姿が立っていた。
緑:無剣、君が一人で出て行っちゃうから、
心配で付いてきたよ。
無剣:緑……あなたも眠れなかったの?
緑:いや、俺は寝てたけどさ……
君の声が聞こえたから、目が覚めたんだ。
緑:どうした?悩み事でもあるのか?
無剣:ううん……なんでもない。
緑:なんでもない?その顔色でか?
悩み事があれば言ってみろよ。一緒に解決策を考えるからさ。
緑:力になれなくても、一人で我慢するよりはマシだろ?
ほら、夜風は体が冷えるから、早くこの服着て。
緑は持っていた上着を丁寧に広げ、私の肩にかけてくれた。
無剣:ありがとう……
緑:遠慮するなって。
それで、何で悩んでるんだ?
無剣:どう言えばいいのか……分からないの。
緑:じゃあ、当ててみようか。剣塚のことだろ?
無剣:読心術でもあるの?
緑:自慢じゃないけど、
君の考えてる事なら殆ど分かるつもりさ。
無剣:今思えば、初めて出会ったのがあなたで本当に良かったわ。
色々と教えてくれて、剣塚まで付き合ってくれて……
緑:へへー!大したことじゃないって。
無剣:でも剣塚に近付くほど、不安になるの。
魍魎もだんだん強くなってくるし、この先にまだ何か待ってるかと思うと……
緑:先の事を心配しても仕方ないだろう?
心配する事でこの先が安全になるなら、思いっきり心配すればいいけどさ。
緑:でも今いくら心配しても、起こるものは起こるんだ。
だから肩の力を抜いて、しっかり準備してから進もう。
緑:だろう?無剣
無剣:……それもそうね。
緑:なっ!俺を信じたら間違いないって。
それに、俺がいれば大丈夫だって!
緑:約束は必ず守る。
どんな凶悪な魍魎が現れても、必ず君を剣塚まで無事に送ってみせる。
無剣:緑、ありが……
緑:またお礼!もうお礼はいらないってば!
俺との仲じゃん!
無剣:……目覚めで初めて会ったのが、あなたで本当に良かった。
緑:天命の縁かもしれないな。
無剣:ええ、きっとそうかも。
緑竹と話してだいぶ気持ちが落ち着いた。
私達は肩を並べて、宿営地へと戻った。
この時、私は願った。
この道がもっと長く、もっと続きますように……と。
裏切ぬの誓い
正直に言うと、私の記憶は混乱していた。唯一はっきりしているのは、
緑が私を氷魄から守ってくれた時に聞こえた叫び声と、
目に焼き付いた彼の大きな背中。
氷魄から受けた毒の影響は、徐々に間隔を狭めている。
彼は毎日無理して笑っているけど、私の心に焦燥感が駆られる。
薪を拾って、水を汲んで、みんなはそれぞれ宿営の準備を始めている。
私は緑を看病しながら、みんなの帰りを待った。
無剣:は――……
緑:ん?無剣、なんでため息をついてるんだ?
無剣:あなたの好物を食べさせたくても、
叫化鶏も作れない自分が悔しくて……
緑:はは……まるで俺はもうダメになったみたいな言い方だな。
無剣:そんなつもりで言ったんじゃないよ!
緑:わかったわかった、冗談だよ。
正直、君がいるだけでも、俺はだいぶ良くなった気がするんだ。
無剣:まだ冗談を言える余裕があるのね……
緑:うーん
突然緑が苦しみだして、額から大粒の汗が頬を伝った。
無剣:緑!
緑:う……ぐぅ……
無剣:緑!大丈夫!?
緑:毒が……回ってきた……・
無剣:もうすぐ絶情谷に着くから解毒薬も手に入る!
しっかりして!
緑:ここまで痛いと……・本当に死んだ方が……楽かも。
無剣:馬鹿な事を言わないで!
約束したじゃない…旅で一緒に美味しいものを食べて楽しもうって。
約束破ったら、許さないんだから…!
苦痛で歪んだ緑の顔は汗にまみれている。
あまりの苦痛で閉じていた眼をゆっくりと開け、
消え入りそうな表情で私を見ている。
緑:無剣……
もしも……もしもだよ。
俺が君の約束を破っても……
緑:その時、まだ……君は約束を守ってくれるか?
無剣:一体なにを言って……!
緑:俺は真面目だよ。
もし俺が約束を破っても、それでも君は……美食の旅に行ってくれるか?
彼の真剣な表情を見て、私も真剣な表情になった。
深呼吸してから彼に答えた。
無剣:あなたが仮定で尋ねてくる以上、私も仮定で答えるね。
無剣:もしあなたがその時毒で死んでいたら、私はあなたを許さない。
緑:本当か……?無剣?……
無剣:本当よ!
緑:そうか……その時が来そうになったら、
君の言葉を思い出したらいいな。
珍しくため息をつく緑を見て、私の胸に不安が広がる。
無剣:緑?
顰めていた眉が緩み、彼の顔色もよくなってきた。
緑:へへ、もう大丈夫!
さっきは辛過ぎたせいで、気分もまいってしまってた。
今はもう大丈夫だ!
無剣:もう、びっくりさせないでよ。
緑:へへ!お互い元気を出していこう。絶情谷を抜けたら、次はいよいよ剣塚だ。
無剣:うん……
そう、私達はいつも肩を並べて歩いてきた。
雪山を越え、海島を越え……
剣塚まで、こうして変わらずに歩いていくだろう。
私は願った。
この旅がもっと長く……
いや、この旅が永遠に終わらないように祈った。
同盟会話
◯◯の緑:そういえば、あれだけはうまく真似ることができたな。
◯◯の緑:叫化鶏を作ることだ。へへ。
◯◯の緑:多分俺も……江湖を遊歴して山海の珍味を賞味したいのだろう。
◯◯の緑:たしかにみんなと一緒に旅した日々は懐かしい。
◯◯の緑:慰めなくていい。
◯◯の緑:またこんな機会が訪れてきたら……いや、もうないだろうな。
◯◯の緑:俺が誰を羨み、誰を嫉妬し、誰を見下すのか、今までずっと分かっている…
◯◯の緑:だがそいつらには俺になかったものがある…いや、短い間だけど俺にもあったか。
◯◯の緑:まばゆい友情のことだよ。
判詞
二句目 翠の衣を纏う少年の美しき容貌
三句目 支え合いながら荒原の道を歩み
四句目 恩恵を尽くして救済を施す
五句目 墓地で銀を前にして義の重さを知る
六句目 谷で諾ひて情深し
七句目 生涯は夢の如く大抵は覚め
八句目 肩を並べて故人を思ふ
コメント(1)
コメント
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・そういえば、あれだけはうまく真似ることができたな。
叫化鶏を作ることだ。へへ。
多分俺も……江湖を遊歴して山海の珍味を賞味したいのだろう。
・たしかにみんなと一緒に旅した日々は懐かしい。
慰めなくていい。
またこんな機会が訪れてきたら……いや、もうないだろうな。
・俺が誰を羨み、誰を嫉妬し、誰を見下すのか、今までずっと分かっている…
だがそいつらには俺になかったものがある…いや、短い間だけど俺にもあったか。
まばゆい友情のことだよ。1
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