工部 仲合、同盟会話
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仲合会話
流血琴音
琴の音は不意に止まった。工部に何かあったのか、私は急ぎ足で彼の元に向かった。
工部:ゴホゴホ……
工部は血が混じるほど激しく咳込んでいた。
無剣:工部、あなた……大丈夫なの?
工部:大丈夫、持病です。ご心配なく。
無剣:でも、血を吐いていますよ……
工部:ええ、よくあることです。
無剣:なら、なおさらお医者さんを探しましょう!
工部は首を横に振り、何も言わなかった。何の希望も抱いていないようだ。
無剣:いくら難しい病気でも、諦めてはダメです!
工部:不治の病なのに、何故無駄なことをするのですか?
無剣:ええ?不治の病?
私の驚く姿を見て、工部は微かに笑った。まるで病気のことを気にしていないようだ。彼にとってこの病気とは……
無剣:でも、それでも……
工部は私の話に聞く耳を持たず、また演奏に専念した。その琴の音は次第に壮絶になり、まるで数万の軍隊が行軍しているかのようだ。その音色に感動し、私は演奏が終わるまで聞き入った。何か話しかけようとしたその時、工部が先に口を開いた。
工部:この曲はいかがでしたか?
無剣:曲の評し方はわかりませんが、ただ自分が戦場にいて、多くの人が命を捨てて殺し合い、まるで血の海を見ている様な……
工部:はい……さすがですね!
そう、この曲は戦陣の音色です。まさか無剣が曲に対して高い理解力を持っているとは。
無剣:ええ、それより病気は……
工部はまた私の話を遮り、話を続けた。
工部:しかし、この曲をこうも深く理解出来るとは、君が戦いに慣れているからでしょうか?
無剣:長い間戦いを続けていますが、なぜそんなことを聞くのですか?
工部:この曲を聞いてください。
工部は再び演奏を始めたが、その音色はまるで泣いているようだ。家族と離れ離れになった人々、空腹にあえぐ人々、災難で苦しむ人々の光景が浮かぶ。聞いているだけで思わず涙が流れてしまう。
無剣:これは……
工部:何が聞こえましたか?
無剣:私には……悲しく……悲惨な情景がたくさん見えました。なぜこの曲を弾いたのです?
工部:これは元より同じ曲、繋いで弾くのは自然なことですよ……
無剣:同じ曲? こんなに違うのに、どうして……
工部:同じ情景の両面を、異なる視点からそれぞれ伝えているだけなのです。そうは思いませんか?
工部の話を聞き、私は何かを悟ったように、工部の意図も理解できた気がした。
無剣:つまり、戦争も人々に降り掛かる禍も、天下の不穏が引き起こしたものだというのですか。
工部:さすがは剣塚の主、理解が早いですね!
工部:魍魎の災い以来、この剣境では次々と動乱が起きました。君が力を尽くしてくれたおかげで、更なる被害を防ぐ事が出来ました。しかし、それでもまだ世は惨劇ばかりです。
無剣:はい、確かに、世の中にはまだ数え切れない程の魍魎が潜んでいます…何時になったら駆逐できるのでしょう……
工部:それだけではありません。いまだに五剣の境には大地の変乱が続いており、まともな道すら確保できない今、剣境にいる全ての者が交通手段を失っています。
無剣:は――……
私は思わずため息をついた。工部の言う通りだ。剣境は動乱が続き、戦いの終焉も遙か遠いもの。自分さえも守りきれない者達は、今もなお魍魎に怯えながら暮らしている…私は…
ふと思いなおした、これと工部の病気に何の関係があるのだろうか? だが気付いた時には、既に工部は姿を消していた……
無奈の傷
無剣:工部!
工部:ほう? 無剣、いらっしゃいましたか。
無剣:はい、今日はこれを持ってきたんです!
私は持っていた薬草を振って見せた。
工部:五陽草、赤蓮花……
無剣:あ、知ってるんですか?
工部:滋養のための薬材として使いますからね。もちろん知っていますよ。
無剣:では使った事もあるんですね! 効果は?
工部:ゴホゴホゴホ……
無剣:効果はなさそうですか……
工部は頭を横に振り、全然効果が無いことを示した。
無剣:それじゃ…内息を試してみましょうか?
工部:内力の無駄使いはやめてください。この体の寒気はそう簡単に追い払えるものではありません。
無剣:いえ……私は剣塚の主。自身の武功と内力には自信があります。
工部:剣塚の主だからこそ、力を貸してはダメです!
無剣:どうしてです?
工部:君にはまだやるべき事があります。僕なんかの為に内力を使っている場合じゃない。
無剣:五剣の境を救う事はもちろん大事です、しかし、仲間の命さえ救えないような者が、どうやってこの世を救うのだ?
私の言葉を聞き、工部は押し黙った…眉をひそめて、何かを考えてるようだ。
工部:はあ……そうですか……分かりました。やってみればわかると思います。
私は工部の手首に手を当て、内力を経脈の中に送り込んだ。彼の体内には経脈に沿って走る恐ろしい寒気があり、それが気血の循環を妨げていたのだ。
だから工部は、冷気で固まった血を吐き出す必要があったのだ。
無剣:あなたの体に……
工部:なに?
無剣:あなたの体内には恐ろしい寒意があるの。私でさえ完全に消すことはできないようです。
工部:はい。
無剣:でも、内力を使って一時的に寒気を抑えることはできます。
工部:まさかそんな方法があるとは、さすがです! ただ……
無剣:ただ?
工部:かなり内力を消耗するのでは?
無剣:いえ、内力の負担は小さいです、ただ毎月……
工部:毎月? なら結構です。この身の寒気、僕自身で持ち堪えられます……
無剣:でも……あなたの体はもう…
工部:大丈夫です……君が五剣の境に平和を取り戻してくれるその日まで、踏ん張ってみせます!
無剣:ねぇ……
工部は私に向けて頷き、その眼差しには輝きが浮かぶ。どうやら強い信念を得た要だ。
工部:君を信じています。それに、五剣の境を救えるのは君しかいない。それは魍魎の災いで既に証明済みですよね?
無剣:はい! 必ず救ってみせます、だからあなたも力を貸して下さい!
工部:ああ、僕も力を尽くすよ。
無剣:では早速、一つ手を貸していただけますか。
工部:分かりました。
無剣:治療させていただきたいのです。
工部:しかし……
無剣:言ったはずです。五剣の境の平和を取り戻すことは大事ですが、仲間の命はそれ以上に大事です。私はそれを見捨てるなんてできません。やらせてください!
工部:しかし、このまま内力を消耗したら、今後の戦いに……
無剣:いいのです。そんなに負担は大きくありません。それにさっき、力を貸してくれると約束してくれたでしょう。
工部:いいよ……
工部はそのまま内力を受け入れ、私はそれを使って彼の体内奥深くに潜む寒気を封印した……
微かに、工部が口元を緩めたように見えた。彼が何を考えているのか私にはわからないが……
寒意来歴
微かに琴の音が聞こえた、きっと工部に違いない。私は急いで駆けつけた。
無剣:工部!
工部:き……君ですか。
無剣:はい、音が聞こえたので探しに来ました。ここしばらく何処へ行っていたのですか?
工部:僕は……病気を治せる場所を探していました。もうこれ以上君の内力を消耗させるわけには……
無剣:では、あなたに良い報せを。
工部:何でしょう? 五剣の境を救う方法を見つけたとか?
無剣:いいえ、あなたの病気のことです!
工部:僕の病気?
無剣:とある功法を考えたのです。きっと病気の治療に役立つと思いますよ。
私の話を聞いた工部の顔には色々な表情が混ざり、その心は全く読めなかった。
無剣:工部、どうしたのですか?
工部:無剣、たとえこの身が朽ち果てようと、五剣の境の為ならば命を捧げます!
無剣:いえいえ、違いますよ。これはただの功法です。そこまで大げさなものではありません。
工部:功法?
無剣:はい、その功法の名は玄氷勁。あなたの体内の万年玄氷を錬成させ、寒気を解消させることが出来るはず。
工部:万年玄氷? 既に寒気の源がわかっているのか?!
無剣:もちろん。寒気の封印に手を貸したでしょう。これぐらいの事も見切れないなら、剣塚の主になれるわけがないです。
工部:では、なぜそれが僕の体内に封じられたのかも分かりますか?
無剣:いえ……教えてくれますか?
工部の顔は少し暗くなり、何かを思い出しているようだ。
工部:あれは魍魎の災が始まったばかりの頃のことです。ある時、逃げ遅れた人を助けていたのだが……
無剣:あなたの実力なら……
工部:そう、相手が普通の魍魎ならば問題はなかった……
ただ、竹林に友人が住んでいました。
無剣:友……達?
工部:はい、蘭渚山の竹林に、玄氷功法を修練する友人がいたのです。
無剣:では、この万年玄氷はその友人の?
工部:そうとも言えるが、そうでもない……
無剣:どういう意味なの?
工部:友人自身がこの玄氷なのです。
無剣:玄氷と化したのですか? そんなまさか! どうして?
工部:しかし、普通の人間に比べて、その魂はあまりにも弱い……
無剣:では……まさか……
工部:そう……もし魂を失った後に玄氷の寒気が暴発すれば、蘭渚山もろとも氷に閉じ込められるでしょう。
無剣:だからあなたは……
工部:はい……その玄氷を自分の体内に封印したのです。
工部は自分の胸を指さした……ようやくようやく理解した。この骨髄にまで凍みる寒意がなぜ工部の身体と一体になったのかを。
無剣:そんな……
工部:気にしなくて良い。もう慣れています。五剣の境の平和の為に力を貸せるならそれで満足だ!
無剣:けど、もしそれが本当に原因なら、この玄氷勁であなたの病気が治ることに確信ができました!
工部:それは、本当ですか?
無剣:ええ、もちろん。玄氷勁は玄氷が発した寒意を自分のものに変えることによって、身体への浸食を止め、安定させる効果があります。
工部:感謝します!
功法を受けた後、工部は何も言わなかった。だが彼の顔に浮かんだ微笑みから察するに、どうやら効いているようだ……
共渡天涯
工部:ふ……
修行中の工部が目に入ったが、私は彼に迷惑をかけないよう、黙って傍から見ていた。
彼の周りにはうっすらと雪の気配が漂い、それは霜や雪に変わろうとしていた。私が想像していたよりも、ずっと調子がよさそう見える。
工部:無剣、来たのですか?
工部は私の存在に気づき、禅定の姿勢から直った。
無剣:体の調子はいかがですか?
工部:はい!
少なくとも、もう君の内力は必要無くなりましたよ。
無剣:気にしないでください。また必要な時には手を貸しますよ。
工部:僕の功力も強くなりましたし。ご心配無く!
無剣:何故助けを拒むのですか?
工部:いや、そう言う意味では……それは……
工部はじっと私を見つめ、何かを言い出したいようだったが、結局無言のままだった。
無剣:何を言いたいの?
工部:俺は……
ゴホゴホッ……
無剣:どうしたの? やっぱりまだ治ってないの?
工部:なん、何でもない。体……体は確実に良くなっている。だから、君と一緒に五剣の境を守りたいのです!
無剣:ええ、是非!
思わず答えてしまったが、工部が仲間になってくれるなんて願ってもないことだ。
工部は少し微笑み、そして琴を弾き始めた……琴の音は清らかに響き、優雅に私の心を揺り動かした。だがこの曲、どこかで聞いたことが……
無剣:何という曲ですか? 聞いたことがあるような気がするのですが。
工部は微笑んだまま曲を弾き終わったが、曲の名前を言う気は無いようだ。
無剣:ああ~思い出した、確か「鳳求凰」だっけ?
工部は頷き、視線を逸らして、私から目を背けている……
「鳳求凰」とはどういう意味なのだろう? 私もどう聞き出ていいのか分からず、二人はそのままじっとしていた。
無剣:それじゃ……修行の邪魔になるといけないから……
工部:構いません。僕もちょうど行くところです!
無剣:行く? どこへ?
工部:五剣の境の平和を取り戻しに行くに決まっているでしょう。
無剣:あなた一人で行くのですか?
工部:まさか、これには君が必要です。
無剣:それはつまり……
工部:一緒に五剣の境を救いましょう。ここに誓います。我は無剣に従い、命を捧げ、最後の日まで君の為に戦うと……
無剣:そんな大げさな……
工部:まさか嫌なのか?
無剣:そ、そういうわけじゃ……。それじゃ、一緒に平和を取り戻しに行きましょうか。
工部は優しく私の手を取り、私たちは一緒に歩き出した。なぜだろう、心の中にこれまで感じたことのない安らぎと自信が溢れてくる……きっとこれが、これからの私を導いてくれる力になるに違いない!
同盟会話
○○の工部:剣境に平和が戻る日はいつになるのでしょうか……
○○の工部:剣境の平和を守るためならば、すべてを尽くしましょう。
○○の工部:民たちの家を取り戻せるのならば……
◯◯の工部:この曲……分かりますか?
◯◯の工部:大丈夫。僕が教えてあげましょう。
◯◯の工部:お座りください。
◯◯の工部:青蓮の洒脱さが本当に羨ましい。
◯◯の工部:……
◯◯の工部:すみません……僕は……
判詞
二句目 捨てられた剣は竹林で鳴る
三句目 酔って眠っても心が静かにならない
四句目 哀愁深くて憤慨で落ち着かない
五句目 何度も涙が出て白髪が生える
六句目 古い情を思い出すと悲しみが一層深まる
七句目 千年の風雲はとうとうと去ってゆき
八句目 過去の景色には夢の中でのみ会える
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・剣境に平和が戻る日はいつになるのでしょうか……
剣境の平和を守るためならば、すべてを尽くしましょう。
民たちの家を取り戻せるのならば……0
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない