テンジャ 仲合、同盟会話
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仲合物語
浄身呪法
この日うとうとしていると、なぜか暖かい力が体の中に流れ込んでくるのを感じた。体の疲れが徐々に取り除かれていく。
無剣「あれ、体が急に楽になった。どういうこと?」
目を覚ますと目に入ったのは空を舞う白装束と、その上に輝く青い光だった。よく見ると、それは指で特殊な構えをしながら呪文を唱えているテンジャだった。何やら仙法呪術を発動させているらしい。
無剣「テンジャ、何をしているの?」
テンジャは私が目覚めたことが意外だったようで、ぽかんとしながらこちらを見ていた。手元の法術も止め、薄い青色は瞬く間に消えた。すると数日間の疲れが体に湧き出た私は、急に体が沈み込んだ。
テンジャ「目は覚めましたか?」
無剣「うん、これは何をしているの? さっき、なぜか体がすごく回復したように感じたけど?」
テンジャ「この施法で、気力の回復を促したんだ。」
無剣「へえ、今まさに唱えていた呪文はそういうこと?」
テンジャ「その通り」
無剣「その法術はなんというの?」
テンジャ「浄身呪と言う法術だ。」
無剣「本当に便利な法術だね、私も使えたらな……」
テンジャ「それは……厳しいかもしれない。」
無剣「世間に難事はなく、己の心掛け次第だよ。教えてください!」
テンジャ「はあ……好きにするといい。」
テンジャはこれ以上私に構わず、不思議な浄身呪を続けて唱えだした。よく聞いてみると呪詞がはっきりと耳に入ってくる。私は彼の真似をして復唱しはじめた。
無剣「……弟子魂魄、五臓玄冥、青龍白虎、雲霞の如し、朱雀玄武、我が軒を随身する。」
テンジャに次いで何回も唱え、言葉にし、手振りをし、一点の間違いもなく出来ていると感じていた。けれど、いくら内力を運用しても、テンジャと同じように人を安心させる薄青の光を出すどころか、自分の気力すら回復することもできない。
無剣「どういうこと? なぜいくらやっても何の効果もないの?」
テンジャ「あなたの体質は、法術を修めるのに適していない。」
無剣「生まれながらに、法術を修めることは出来ないということ?」
テンジャ「いや、違う。ただ素質が違うだけだ。」
無剣「という琴は、やっぱりこの体質が法術の修行に合わないんだよね?」
テンジャ「お前は武から入道したが、武道が一定の水準に達すれば、道において法術と武功との間に分別はないだろうさ。」
無剣「つまり、武功が一定の領域に達したら、法術も使えるようになるよね?」
テンジャは微笑みながら頷き、再び法術を発動させた。全身に暖かい力を感じると、体がぽかぽかしだし疲労が段々と消え去っていく。
無剣「今回はお手伝いが出来ないようだね。」
テンジャ「構わん。精力はまだ足りている。」
テンジャが微笑むと、なんだか暖かさと安心感を覚える。きっと彼の他人を気遣うところから、私はそう感じたんだろう。その温かな気配を伴いながら、体は徐々に回復し、心を落ち着かせていると、いつの間にか静かに眠っていた。そのまま、暁の光が差す頃にようやく目を覚ました。何やらいい夢まで見た
碧水天人
テンジャ「この辺りの邪気が重い。気を付けろ!」
無剣「魍魎を見つけた。そこにいる!」
魍魎「オオオーー」
テンジャ「滅!」
テンジャは剣気を運用し、強烈無比な剣法で襲いかかってきた魍魎を斬殺した。しかし、魍魎を斬った後、テンジャは剣を地面に突き体を支えた。かなり多くの体力を消費したに違いない。
無剣「この魍魎たちはキリがない。テンジャ、大丈夫?」
テンジャ「問題ない。周りに魍魎はいない筈だ。見張りはこちらに任せろ、あなたは少し休憩するんだ」
無剣「あなたの方がよっぽど疲れているでしょう、先に休んで。」
テンジャ「それはそちらも同じだろう? 先に休んだ方が……」
無剣「テンジャ! 気を付けて!」
突然、側で待ち伏せしていた一匹の魍魎が私とテンジャに襲いかかってきた。テンジャはすぐに構えて、猛烈な勢いの剣気を放ち、一瞬にして魍魎を斬殺した。
しかし魍魎の体は大きく、私たちはその激しい勢いに抵抗できないまま、巨大な体によって崖下へと突き落とされた。
無剣「ここはどこ?」
目が覚めた後、先程の状況を思い浮かべて、まだ少し心臓がせわしなくしている。幸いにも断崖の淵が落下の勢いを止めてくれたので、怪我をせずにすんだ。私は森の空地に座り、目が届く所にあるのは奥深くひっそりとした景色だけだった。
無剣「さっきこの淵へと落ちたに違いない、でもなんでここにいるんだろう? どういうわけか服も乾いているし、まさか……」
その時、森から一人の人物がやってきた。テンジャだ。本来は雪よりも白い服に、多くの汚れが付いていた。きっと気を失った私を淵から救ってくれたんだろう。
無剣「テンジャ、あなた……」
テンジャ「あの魍魎がまだ生きているかもしれん、先程まで探察をしていた。」
無剣「なぜ私の服は乾いていたままなの?」
テンジャ「風邪を引かないか心配し、法術で水分を除去した。」
無剣「ありがとう!」
テンジャ「礼には及ばない、魍魎を止められなかったからな。止められていたら、落ちることはなかった。」
無剣「気にしないで。ただ一つ、質問に答えてくれる?」
テンジャ「仰ってください。」
無剣「頭の上のは一体なに? なぜ法術を発動するたびに、わずかに光るの?」
テンジャ「触っても結構」
無剣「本当?」
軽くテンジャの額に触れると、その印は厳かな気を放ち、一瞬にして私の精神を覚醒させた。天雷に軽く打たれたようだ。
無剣「この感じ、一体どういうこと?」
テンジャ「この傷跡は九天雷印、聖なる気を含み、一切の邪気を祓う」
無剣「道理で、毎晩寝なくても、相変わらず元気そうだったんだね。」
そう言った途端に、私は思い出した。九天雷印をもってしても、今日のテンジャは依然と普段ではありえない失敗を犯してしまっている。精神的な疲れがどれ程積み重なってきたのかなんて明らかだ。言葉にならない感動がこみ上げた私は思わずテンジャにそういった。
無剣「本当に、お疲れ様です!」
テンジャ「構わない。すでに合歓と連絡はしてある、ここで休んでいれば、まもなく合流してくるだろう。」
テンジャ「道のりはまだ長い、少しぐらい休んでもよかろう。」
無剣「大丈夫だよ。あなたの方こそ、早く休むといい。」
テンジャ「気にするな、大して疲れていない。」
無剣「嘘、どう見ても疲れているのに。じゃなきゃあなたが魍魎に奇襲されるはずないよ。早く休んで、見張りは任せてください!」
テンジャ「はー―……」
テンジャ「確かに、今日の事は私の過失だ、しかし……」
無剣「あまり考えないで、よく休んで! 安心して、私は大丈夫だよ。」
テンジャ「……」
無剣「それに、毎晩私たちの気力を回復させるだけじゃなく、あなた自身のことも……」
言い終わらないうちに、テンジャはもう眠りに就いていた。倒れそうな彼を慌てて支えると、そのまま私の膝に横たわる形となり、顔には和らいだ表情を浮かべた。疲労が頂点まで達していたのは明白だ。私たちはそうしたまま、黄昏を迎えた……
漫歩紅林
無剣「森に行ってぶらぶらして、気晴らししてくるよ。」
テンジャ「行かない方がいい。」
無剣「なぜ?」
テンジャ「ここはかなり危ない、一人では恐らく……」
無剣「もう追ってくる魍魎はいないし、別に危なくなんて……」
テンジャ「この森そのものが、とても怪しいんだ。」
無剣「森が怪しい? 気をつければいいだけだよ!」
テンジャ「一人では道に迷う恐れがある。」
無剣「あまり遠くへは行かないよ。でも、心配なら、一緒に行くのはどう?」
テンジャ「はっ!」
意外なことに、テンジャは微笑みながら、快く引き受けた。誘われたことが嬉しかったようだ。
テンジャ「他に何か持っていく物は?」
無剣「もう大丈夫、すでに準備済みだから!」
血色森林の景色はかなり特別で、日光がある所では紅葉が陽射しに照らされ、一つの絶美な景観を成している。しかし、暗闇の中で紅葉はまるですべてを飲み込むような血色へと変貌する。同時に存在する二種類の景色が、魔性の魅力を引き出していた。
無剣「ここは本当に不思議な森だ。絶美な紅葉と恐ろしい紅葉が、同時に存在できるなんて。」
テンジャ「陰を極めれば陽と化し、陽を極めれば陰と成る、これは自然の理だ。」
無剣「あなたはいつ転化するつもり?」
テンジャ「私?」
無剣「ね、あなたはいつになったらちょっとばかり積極的になるの?」
テンジャ「時はまだ来ていない。」
無剣「いつになったら来るの?」
テンジャ「……」
テンジャは微笑みながら首を振った。どうにもこの質問に答えるつもりはないようだ。それはさておき、一つ大変なことに私は気付いた――道に、迷ってしまった。
無剣「テンジャ、迷子になった……」
テンジャ「うん……」
無剣「この森で迷子になるなんて、まずいかもしれない。」
テンジャ「何故迷子になったと思うんだ?」
無剣「ということは、あなたは来た道を覚えてる?」
テンジャは微かに首を振り、私の希望の灯火を消した。
無剣「あなたも覚えていない。それはつまり迷子になったということじゃないの?」
テンジャ「来た道が分かっても、帰る道が分かるとは限らない。帰る道が分かっても、来た道が分かるとも限らない。」
無剣「どうすれば帰れるか分かるの? どうやって来たのかも分からないのに? 無理だよ。」
テンジャ「付いてこい。」
無剣「このまま先に進むの?」
テンジャ「この森の中にある気は剣気で育まれたもので、自然と出来たもの完備ではない。この森に入ると、全ての魂魄が影響を受け、道に迷うさまをもたらしてる。」
無剣「つまり、それが迷子になった原因?」
テンジャ「その通り。今見てきた道は全てこの森の幻だ。このまま行けば、間違いなく抜けられなくなる。」
無剣「つまり、あなたに付いていけばいいの?」
テンジャ「うん……」
テンジャは手を差し出しながら意を示し、私も少しためらいながらも手を差し出した。そのままテンジャは私を連れて、前方にある森へと歩いて行く……
来日再会
???「朗朗乾坤において、こんなに特別なことがあるのか、なぜこれほど思いをはせる。」
???「は――……」
???「雪に情があるように、私もただの凡人だ。」
嘆いているのは一体誰だろう。だがそこで感慨に浸っているのか見たくなり、目の前の木立から踏み出すと、テンジャがそこからゆっくり歩いてくるのが見えた。
無剣「テンジャ!」
テンジャ「ん?」
私を見た瞬間、テンジャはひどく驚いたのか目をゆらゆらと泳がせた。彼のこんな緊張している姿、未だかつて見たことがない。
無剣「大丈夫か?」
テンジャ「い、いえ。」
テンジャ「何か用でもあるのか?」
無剣「いいえ、呼び戻しに来ただけだよ。五剣の境を離れる準備をしなければいけないから。」
テンジャ「その件は急がずともいい、少し散歩に付き合ってはもらえないか?」
無剣「いいよ。」
私はテンジャと森の中をゆっくりと歩いた。二人とも何を言えばいいのか分からず、ただ紅葉が周りでさらさらと散っている。森の奥まで歩くとテンジャは足を止め、静かに私を見た。
テンジャ「まもなく五剣の境から離れることとなります。」
無剣「うん……」
テンジャは小さな本を私に手渡した。中には理解できないものしか書いておらず、識別できたのは横の付記に書いてあったテンジャの文字だけだった。
テンジャ「これは我が一門の法術の口訣だ。中には修行時の心得も書いてある。お前が武を極めた暁には、この本を参考にするといい。中に記された法術を使えるはずだ。」
無剣「本当?! ありがとうテンジャ。でも残念ながら、あなたは私の修行の成果を見れないね。」
テンジャ「なぜ分かる?」
無剣「だって……もうすぐこの世界から離れるんじゃ……」
テンジャ「世界が隔てただけで、私を止められるとでも思ったか?」
無剣「ねぇ……」
テンジャ「九天九幽、九生九死、一剣開天、一剣辟地。二つの世界を往復することは難しくない。」
無剣「そうだね。テンジャは強いから、きっと問題ないよね。」
テンジャ「その通り。あなたに会うためなら、どんな困難でも乗り切ってみせる。」
無剣「いつ帰って来るの?」
テンジャ「わからない。だが、どれほどの時間がかかろうと、必ず戻ってくる。」
テンジャの揺るぎない眼差しに、私は何を言えばいいのか分からず、嬉しいのか悲しいのかも口にできなかった。
無剣「どうかお気をつけて!」
テンジャ「あなたもな。」
テンジャ「失礼する。」
無剣「うん!」
そうして、長い間森の中を歩いていた。いつかまた、一緒に散歩できる日が訪れると私は確信していた。
まるで私の心を読んだかのように、テンジャは私に頷いた。必ず帰ってくる。彼の笑顔から、そう伝わってきた……
同盟会話
○○のテンジャ:さっきの鈴の音、聞こえたか?
○○のテンジャ:合歓とここではぐれてしまった。時間がない、すぐ合流しなければ。
○○のテンジャ:話すだけ無駄だ。私が見に行こう。
○○のテンジャ:十年は一瞬で過ぎ、何もかもが変わってゆく。
○○のテンジャ:変わらぬものがあるというなら……
○○のテンジャ:愛する者への想いだろうか。
○○のテンジャ:私はこの世界の者ではない。
○○のテンジャ:私に会ったことがないのも不思議なことではない。
○○のテンジャ:しかしお前からは……懐かしい気配がする。
判詞
二句目 素色の衣をまとって高い峯に立つ
三句目 聖なる闘気が霜や雨を降らせ
四句目 仙人のような姿が日の如く眩しい
五句目 前世に散々恋に苦しみ
六句目 今や歳は聞くすべも無い
七句目 情深さだけではなく涙もあろうが
八句目 如何に遠くても君に会いに行きたい
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