孤剣 仲合、同盟会話
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仲合物語
真夜中の剣影
びっくりした私は慌てて窓の外を見た。夜色の中で刃が一筋光を放ち、ぼんやりと黒い人影が見えた。
無剣:誰だ?
孤剣:なに?
その銀色の光が突然目の前に現れると、喉元寸前で止まった。
無剣:あなた、なんでここにいるの?
言葉が終わらないうちに、孤剣は剣を納めた。
孤剣:ここは安全じゃない、早く離れろ。
私を一目見た後、孤剣はその場を離れようとした。まるで墨のような姿が、一瞬で夜闇の中へと消えていく。
無剣:待ってよ!この近くに何か危険なものでもあるの?
孤剣:そうだ、魍魎を発見した。
無剣:魍魎の中には心魄も剣魂もない、奴らは本能のままに他者の魂を感じて行動する。黒闇の中では、魍魎の恐ろしさが余すところなく表れる。一般人
には魍魎が見えないけど、人の魂は灯火のように魍魎たちを引き寄せる。
無剣:なら早く火をつけないと、そうすれば魍魎の不意打ちは防げられる。夜番でも用意して、明朝まで待てば、魍魎たちを粛清できる!
魍魎の襲撃対応を考え込んで、孤剣に構う間もなく他の人たちを起こそうとした時、彼に止められた。
孤剣:その必要はない、既に周囲の魍魎を殲滅した。
孤剣の姿が再び目の前に現れ、否定させない口調で言った。
無剣:一人で?何体いたの?
孤剣:大したことはない、たった数十体……
無剣:こんな夜に数十体もの魍魎を相手に?
孤剣:それが?どうってことないだろう?
無剣:あのね、危険だって分かってるの?
孤剣:造作もないことだ。先に寝ていろ、私にはまだ剣道の修練がある。
孤剣は軽々しくそう言った。でも、夜色が真っ暗になった今、もし魍魎に襲われでもしたら、ただで済むことではない。
無剣:でも、こんな真夜中で、もし逃れた魍魎がいたら……
孤剣:ありえない話だ……
無剣:何でそう言い切れるの?
孤剣:この孤剣がもう魍魎が無いと言ったのだから。
無剣:それは…
孤剣:私の言葉は信用できないのか?
無剣:違うよ、ただ気をつけたほうが……
孤剣はふん、と言いながら姿を消した。私は部屋に戻って提灯を持ち出し、周りの巡回をし始めた。
ほぼ一晩中巡回をしていたが、その間ずっと銀色の光と黒い影が近くにいたことを薄々と感じていた……
情花の茶
この日の夕暮れ、孤剣は扉の前に立っていた。静かに空を眺め、何かを待っているようだ。
無剣:孤剣!
私は庭にいる孤剣に声を掛けてみた。そしてやっと彼は私に気づいて、空から視線を逸らした。
孤剣:あなたは?
無剣:今日も剣の修練なの?
孤剣:恐らく無理だろう……
無剣:なぜ?
孤剣:今日は月が出るかもしれない。
無剣:月がどうしたの?
孤剣:私の剣法は、光のない黒闇の中でしか修練できないのだ。
無剣:そんな修練しづらい剣法があるの?
孤剣:難しくはない……
無剣:じゃ、もしかしてあの日はせっかくの修練の邪魔になったの?
心の中に不安な気持ちが満ちていた。月のない日は、近頃だとあの日しかなかったみたいだから。
孤剣:構わない、いつか光のない夜がまた来るのだ。
無剣:でも……
孤剣は私の方に頭を振り、他言無用だと合図するや、空を眺めることに専念した。私は何をすればいいのかわからず、彼と一緒に空を見つめた。
空はすぐに晴れ上がり、一輪の満月が東よりゆっくり昇った。孤剣は一言も言わずに、私に後ろ姿だけ残して、自分の部屋へ向かっていった。
孤剣が剣道の修練を大事にしていることは目に見える。何をすれば彼を喜ばせることができるのか分からなかった。でも、何かをしなければ……
無剣:情花茶は絶情谷の特産であり、孤剣も茶飲みだと覚えている。だから翌日、私は彼のために情花茶を特別に用意した。
無剣:孤剣、いますか?
私はお茶を持って部屋の外で彼を呼んだ。随分待った後、孤剣がやっと出て来た。私の手に持つお茶を見て、少し驚いたようだ。
無剣:私が作った情花茶よ、お茶が好きだったよね。だから品定めしてほしいなと思って。
孤剣:ほう?自分で作った情花茶なのか?
無剣:そうだよ、どうかしたの?
孤剣は信じがたそうに私を見つめた。瞳の奥には読み取れない複雑な感情が潜んでいた。躊躇しているかのようで、一体何を考えているのかが全く分からない。
孤剣:どうやって作ったんだ?
無剣:谷の中の古本で見つけたんだ。
昼間のお茶を作った過程をそのまま彼に伝えた。
孤剣:これは今日作り立ての情花茶なのか?
無剣:うん、先に飲んでほしいから!
孤剣:悪くない、だが少し残念だ……
無剣:何が?
孤剣:本来情花茶の香りは人を酔わせる効果がある。だがその香りが濃過ぎると、茶の清々しい吟味が壊れてしまう。だから太陽の下で、日差しで香りを削ることで、最高な味が保てるのだ。情花茶を夜に飲むとは、良い選択ではないのだ。
無剣:そんな……私……
孤剣:まあいい……私も長年情花茶を飲んでいない。酒の代わりとして、月見でもしよう!
孤剣の話を聴いて、私も安心して彼と月を眺めはじめた。でも、情花茶は不思議なものだ。酒の味がしないのに、なぜか飲んだ後、ぼんやりとして、胸がドキドキする……
同じ道の人
この日、私はまたお茶を持って孤剣を会いに行った。珍しく今回は彼からの誘いで、場所は碧水寒潭に決めていた。そこに到着すると 、既に彼が岸辺で待っていた。
孤剣:来たか。
無剣:うん!随分早いね、待ってた?
孤剣:いや、座れ。
無剣:良い眺めだね、よくこんな良い場所を見つけたね。
孤剣:昔から絶情谷のことは知り尽くしている。どこの風景が良いか、どこがお茶飲みに適しているか、知らないものはない。色々変わったが、こういうところを探すのも容易いことだ。
無剣:じゃあ何で寒潭を選んだの?
孤剣:ここは絶情谷の中でもお茶を飲むに一番相応しい場所だ、なぜかと言うと……
孤剣は私に情花茶を渡した。香りが普段よりさらに爽やかで、質が高いことは明らかだ。
孤剣:ほら、試してみろ。
口に運ぶと、情花独特の香ばしい香りが口から全身に広まり、まるで夢のような気分で、虜になった。
無剣:このお茶、完璧だよ。孤剣が作ったの?
孤剣:そうだ、だが完璧なのはお茶ではない。
無剣:お茶じゃない?まさか作り方が違うから?
孤剣:方法は全く同じだ、特別なところはない。
無剣:なら何でこうも違うの?場所を変えただけで、味にこれほど大きな変化が起こるの?
孤剣は私に向けて頭を振った、私の驚きように納得していないようだ。
孤剣:良い情花茶を作れるのに、その中にある道理が分からないのか?
無剣:道理?お茶に特殊な道理があるの?
孤剣:情花茶の制作の複雑さに、意味がないはずがなかろう?各手順に独特な目的があるこそ、精製が難しいのだ。
無剣:でも、本当に分からないよ。情花茶は一体……
まだわからない私を見て、孤剣がため息を吐いて話し始めた。
孤剣:太陽の方を向いた情花蕾からもっとも柔らかい葉を採取し、鍋て炒める。出来上がった物から一番透明さを保つ若葉を選別し、日差しの下で乾かして初めて、情花茶が完成するのだ。
孤剣:情花の独は本来影の極まりだ。ゆえに太陽に向く部分が、一番毒性が弱い。そして爛々と光る若葉が一番情花の香りを保つ。これでこの情花茶には情花の香りもあり、毒性も避けられるわけだ。
彼は言いながら、お茶を一口含んだ。
無剣:そんな学問もあるの?
孤剣:はぁ……まさか、情花茶の真理も分からずにこんな素晴らしい茶を作れるとは、不思議なものだな!
無剣:情花茶に関することを全部私に教えてくれたら、理解できるでしょう?
孤剣の顔に意味深い笑顔が浮かんだ。なにか面白いことを思いついたようだ。
孤剣:長い間情花茶を飲んでいるが、普通の茶との違いはなんだと思う?
無剣:普通のお茶に比べると、芳香の中に特殊な香りを含んでいる。この香りはお茶の香りくらい薄いけど、体の芯に染み込んだ後、人を酔わせる。まるでお酒を飲んだ感じだよ。
孤剣:そうだ、それこそ情花茶の特徴だ。この香りは絶情谷の先祖たちによって極めて重要な儀式において用いられた。情花茶を制作する時全ての手順が、その香りを表現させるためのことだ。
無剣:どういう儀式なの?
孤剣:そんな簡単なことくらい、自分で考えろ。
孤剣は私の抗議を無視し、ぼやっとしている私を置いてその場を去っていった。
茶の真意
こうして、その答えを求めるため、再び孤剣のもとを訪れた。
無剣:孤剣!
孤剣:ほう、来たのか。
孤剣は微笑みながらいつもの場所に座って私を見ていた。手に持っている茶碗のに数枚の茶葉が浮いていた。
無剣:教えて、情花茶はどういった儀式で用いられているの?
孤剣:さあ、飲め。
無剣:一体どういう風の吹き回しか分からず、ただ座りながら疑うような顔で彼を見ていた。
孤剣:この茶、試してみろ。
以前飲んだお茶と異なり、苦くて甘くて、それでいてさっぱりした香りを持ってる。
無剣:まさかこれも情花茶?
孤剣:そうだ、もう一種の情花茶だ。恐らくこれを作れるのはこの世で私だけだろうな。
孤剣:それに、谷中の情花も昔とは状況が異なる。いつまでこれを飲めるか……
孤剣は平気そうな顔で言いながら、瞳の中には仄かに物憂げな色が映っていた。
無剣:きっと昔はいつもこの情花茶を飲んでいたんだよね。
孤剣は私をチラッと見た。今の質問で驚かせたことは明白だ。
孤剣:バカバカしい。情花茶はむやみに飲むわけんが……
無剣:なら情花茶が代表する儀式はすごく重要なものだよね、そうでしょう?
孤剣:私をはめたな?
孤剣は少し笑い、話題を止めた。
孤剣:これは、自分の頭で考えろ。
無剣:もう…教えてよ!
無剣:私は孤剣に答えを求めた。なにしろ、他に知る者はもういないから。
孤剣:駄目だ。
孤剣は首を振りながら、顔に意味深い笑顔を浮べた。明らかに教えてくれる気がないようだ。
無剣:じゃ……いいよ……ゆっくりお茶を飲もう、過去のことなんて気にする必要ないもんね。
孤剣:まさかおおよそを知っただけで諦めるとはな。
無剣:でもあなた以外に、それを知る者がいないでしょう!
私の言葉を聞くや、孤剣は落ち込んだ顔をした。彼を慰めようとした時、彼は袖の中から一冊の本を取り出した。
その本はまだ新品で、墨の跡も乾いていない。表紙に『情谷茶経』と書いてある。
無剣:これは?
孤剣:読めば分かるさ。
開いてみると、中にお茶の作り方や飲み方が記載されていた。どうやら孤剣が長年の間に整理したお茶への心得のようだ。
無剣:すごい、お茶飲むのにこんなにたくさん拘りがあるなんて!
孤剣:当然だ、茶は奥深い物だぞ。よく覚えるといい!
無剣:うん、わかった!
孤剣:これで私以外に知る者がいないと言わないでくれ!
孤剣がその言葉を口にした時、どこかいつもより楽しそうに見えた。
無剣:安心して、この本に書いたことを、これからもっと多くの人に教えるよ。
孤剣:本当か?情花茶についてはっきりしたのか?
まだ本を読んで、情花茶が用いられる儀式をはっきりしていないことに気づいた。
私は取り急ぎ本を閲覧し、ようやく情花茶に関する節を見つけた。だが書いてあったものは僅かな数行であった。ーー『情花茶とは、絶情谷の特産物である。茶の香りは濃厚で美酒に等しく、味はすっきりしており、それでいて味が尽かない。茶の中の絶品である。』
無剣:これだけなの?
孤剣:はぁ……
孤剣は意見を述べずに、続けて読めと差図した。
私は思わずむしゃくしゃしてきた。が、孤剣の微笑んだ視線が目に留まり、私は我慢して読み続けた。そして、本の後半に茶礼という章に巡った。情花茶と別なこの章を目にした瞬間、私は『茶経』を落とすところだった。
絶情谷にて情花茶は酒の代物であり、二人が契りを結ぶ時のみに使われる。自らの手で作った情花茶を相手に捧げるということは、己の身を相手に献げることと等しい意味。そして苦い情花茶は、永遠の約束を意味する……
無剣:それは…
孤剣:どうしたの?
何を話せばいいのか分からず、言いにくい気持ちが心に広がっていった。
無剣:これ……嘘じゃないよね?
孤剣:あなたはどう思いますか?
孤剣はいつもの顔をしていたが、口元に笑みを湛えていた。
無剣:どうして……
孤剣:礼には礼で返さないとな。お前が私に送るなら、私もそれに応えなければ。
無剣:でも……
孤剣:まさか嫌いなのか?
そうして、私たちは芳しい情花茶を飲み続けた。未来ではこんな日々も多くなるのだろうか…
同盟会話
○○の孤剣:陰陽玉佩から出てこられたのはいいが、剣境はあまりにも変わってしまった。
○○の孤剣:私は……過去の絶情谷が懐かしい。静かで平和だったあの頃が……
○○の孤剣:魍魎を退治したら、またあの頃に戻れるのだろうか。
○○の孤剣:最近曦月の様子がなんだかおかしい。何を考えているのだろう。
○○の孤剣:普段通りに平然を装っていると思うが、あいつから焦りを感じ取れる。
○○の孤剣:谷の外のあいつの友人と関係があるのだろうか……
○○の孤剣:夢妖と夢魘はどこから来たのか……歪んだ裂け目か?それとも裂け目の向こうの世界なのか?
○○の孤剣:たくさん考えたが、答えを得ることはなかった。やつらと戦いを重ねるたび、私の迷いは増えていった。
○○の孤剣:なぜなら彼らはまるで……私たち自身のようだからだ。
判詞
二句目 眺める人は落ちる花のように魂が抜く
三句目 陰も陽も天意でそのうち時が過ぎてゆき
四句目 人生は春まで待てない霜のように短い
五句目 冷たい鉄の剣を身につけて
六句目 奔走する袖が塵に染まる
七句目 鏡に対して反省はするけれども
八句目 危険冒しても夢のような繁華さに助けたい
コメント(1)
コメント
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・最近曦月の様子がなんだかおかしい。何を考えているのだろう。
普段通りに平然を装っていると思うが、あいつから焦りを感じ取れる。
谷の外のあいつの友人と関係があるのだろうか……0
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
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