飛燕 仲合、同盟会話
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仲合物語
飛燕踏雪
目の前にそそり立つ雪松を見かけたのでそこに向かって歩き、寄りかかって休もうとする。
まだ寄りかかる前に木の上からスッと影が降りてきて、私の目の前に立った。
無剣:……飛燕?
その人の正体はすぐ分かった。しかし彼が神出鬼没なはずだと思い、少し疑問を抱く。
飛燕:うん。俺を見て……びっくりした?
目隠しの黒い布があるのに見つめられている気がした。
私は急に笑ってしまった。
無剣:そんな、強いて言うなら……
飛燕の素晴らしい身のこなしにびっくりしただけだよ。
飛燕:ほぉ?
彼は何も反応しなかったため、そのまま話を続けた。
無剣:さっきひとひらの雪も落ちることなく木の上から飛び降りてきたから……
そんな動きができるなんて羨ましい。
それを聞いて、飛燕がいつもの冷たい顔がようやく柔らかくなった。
飛燕:よく分かったね……この軽功は霊蛇様から習ったもので――
飛燕:軽功で私に勝てるものなどこの世にはいない。
話が終わると、飛燕はいつになく自慢気な顔をしてみせた。思わず彼に冗談を飛ばしてしまいたくなる。
無剣:そんなにすごいの?私にも少し教えてくれないかな?
本当はなんてことない冗談だったが、飛燕はその話を聞き私をまじまじと見ている。
飛燕:君の資質でこの軽功を身に付けるのは……
彼は少し止まり、口を閉ざした。
思わず問い詰める。
無剣:……身に付けるのは?
飛燕:天に昇るより難しい。
ちっとも顔を立ててくれないな、と私は思わず苦笑した。
私が何か喋るのを待たずに飛燕はまた話しをはじめた。
飛燕:しかし、「身につける」ことは難しいが「入門」することはできるかも。
一瞬唖然としたが彼が言った言葉の本当の意図を理解した。
無剣:つまり飛燕は……私に教えてくれるの?
飛燕:事実を言ったまでだ。
また水を差された。でも相手の性格は分かっているから、しばし次の言葉待っていた。
飛燕:……本気で学ぼうとするなら、暇な時、俺のところに来い。
すぐにお礼を言いたかったが、飛燕の姿は一瞬で雪の中に消えていった……
瞬息千里
ただこの日、私は飛燕の真似をして木立を飛び越えようとするが、雨が降ってきたせいで足元が滑って……
飛燕:危ない……!
電光石火の如く、飛燕は急いで私の片袖を引っ張ったことで横の砕石の山に落ちるのを避けられた。
でも服が跳ね返る泥で汚れてしまった。それを見て飛燕は眉をひそめた。
飛燕:たぶんその服はもう着られない。
飛燕ほど綺麗好きではないけれど、体中泥まみれでさすがに気まずくなり頭を下げた。
無剣:その、今から帰って着替えるから……今日はここまでにしましょう。
飛燕は納得せず、更に眉をひそめた。
飛燕:遅すぎ。
飛燕:それに……
君は昨日洗濯したばかりで、昨日は雨が降ったんだ。服が渇いているはずがない。
無剣:ちょ、なんでそんなことまで分かるの……
飛燕:大したことないよ。
彼はそっけなく言いながら私の驚いた顔を無視して、遠くを眺める。
飛燕:まあいいや、君はここで少し休んで、すぐ戻る。
と言いながら、飛燕の姿は森の奥に消えた。
暫くするとあの見慣れた姿がまた目の前に現れ、手に新しい服を持っていた。
飛燕:ほら、着替えて来い。
私を見て、飛燕は否応なしに服をくれた。
無剣:この服……どこからもってきたの?
私からすると、あんなに短い時間でこの服を見つけることはまるで魔法のよう。
飛燕:近くの町で買ったやつだ。
飛燕は軽い調子でそう言ったが、私はとても不思議に思った。
無剣:ここから一番近く町でも数百里もあるって聞いたけど。
飛燕:だから?この「瞬息千里」の軽功にかかれば数百里も大したことじゃない。
飛燕:余計なこと言ってないで、早く着替えて来てまた俺と軽功の練習をしよう。
ここまできてようやく飛燕がそれ程気にする理由が分かった。今日の練習を中断させたくないからだ。
無剣:そんなに急がなくてもいいよ……また明日にすればいいのに。
思わず首を振って、小さな声で言った。
飛燕:今日の予定は今日で終わらせる。サボらないでよね。
飛燕は私の意見を認めず、いつもの涼しげな瞳に真剣さを映してきた。
無剣:うん、わかった。今から着替えてくる。
彼の執念に巻け、私は仕方なく頷いてから急いで着替えてきた。
飛燕:その服……君に似合ってる。
私を見て、飛燕はいきなりそう言った。
しかし日が沈むまで彼とずっと軽功の練習をしていたため、その話の本当の意味を聞く機会がなかった。
一念徘徊
私がふと上を向いた時に、枝葉の隙間から垂れ落ちた衣服の端を見ていなければ、彼がまた木の上に潜んでいることに気付けなかった。
無剣:飛燕?
名前を呼んでみたものの、なかなか返事は来ない。
諦めかけて、背を向けてその場を立ち去ろうとした際、上から物音が聞こえてきた。
飛燕:なにか用?君の軽功はもう入門レベルに達している、これ以上私の教えを受けてもあまり意味はない。
その声を辿って私は頭をあげた。真正面の枝の先端に飛燕が立っている。彼の顔つきは何重と重なった木の影に遮られ、よく見えない。
無剣:意味がないと……会っちゃダメかな?
無剣:もし、もし私があなたにただ会いたいと言ったら、あなたは降りて来てくれる?
こう聞かれることを予想していなかったのか、しばらくの無言が続いたのち、飛燕は顔を横に向けた。
飛燕:……私は降りてこないよ、ここから見える景色はなかなかのものだ。それに、あなたじゃここまで来れないでしょう。
以前、私に木登りのコツを教えなかったのは絶対わざとでしょう……と阻喪(そそう)のあまり、こう思わずにはいられなかった。
けれど、ここ最近の付き合いで、今は飛燕のことを何も知らなかった頃の私ではない、「作戦」をすぐに練り上げた。
無剣:あなたの言うように、私は確かにそっちには行けないかもしれない……けど、もし飛燕が自分から降りてきたら、あるいは?
飛燕:ほう?私が自ら降りると?
「うん」と、私は頷いた。
飛燕:おおせのままに。どうか、満足したか?
飛燕は全く関心のない様子で私の方をちらっと見た。
無剣:ええ、約束ですよ!
にやっと私は懐から何やら袋のようなものを取り出して、飛燕に向かって力強く投げた。
飛燕:私の目はごまかせない!
言ったそばから、飛燕は一撃で私の投げた布の袋をあっさり割ってしまった。
無剣:それはどうかな?
再び口角を上げた私の口元とともに、割れた布の袋の中から粉塵が星のように舞い散り、余裕ぶっていたあの彼を木の上から地面へと追いやった。
飛燕:ゴホゴホごホ、なんだこれは?
珍しく狼狽えた姿を見て少し申し訳なく思った私は、急いで彼の服についた粉塵を拭き取った。
無剣:ただの花粉だよ。でもこれで……私の勝ちでいいかな?
飛燕:……何がしたいんだ?
このようなやり方に飛燕が何も感じないはずないと了承していた私は、彼の不快な顔をよそに、その黒紗の下に隠れている瞳を無言で見つめた。
無剣:特にないわ。ただ、一つ飛燕に約束してほしいことがある。
飛燕:したいこと?
無剣:いつも一人で何もかも抱えないこと。なにか嫌なことがあれば話すこと。せめて……私には。
飛燕:あなたは……なぜ……霊蛇さまといえどもそんなこと……
飛燕は複雑そうな顔を浮かべていた。私の“要求”がこういったことだとは全く予想していなかったのだろう。
無剣:なぜ?多分飛燕のこと、友達だと思ったからだと思う。
飛燕:友……達?
無剣:そうだよ、それもとっっっても大事な友達。
飛燕:………
飛燕:……考えておくよ。
曖昧な返事を残して、飛燕は再び私の前から姿を消した。
その時、何故かは分からないが、飛燕はきっともう選択しているのだと、この時の私はそう信じていた。
進退相随
見慣れたはずの光景だが、記憶が戻った私にとっては、どこか夢の中の知らない光景のように感じた。
逃げ出したいほどに……
飛燕:あなたも逃げるのか?
振り向く暇もなく、大きな黒影が私を覆った。
無剣:俺は……
何か言おうとしたが、結局言えなかった。
飛燕:てっきり、現実に向き合いたくないのは私一人だと思っていた。
咄嗟に飛燕は口を開ける。語気には冷たい感情がこもっていた。
飛燕:私のことが知りたいのだろう?なら教えてやる。
飛燕は背を向うとした私の肩を掴んで正し、そのまま私を見つめた。その視線は私が逃げ出すのを微塵も許さなかった。
飛燕:ーー私があそこまで霊蛇の上様にこだわっていたのは“過去”に戻りたかったからだ。
飛燕:まだ上様と中原に来ていなかった過去に、白駝山に居続けられていた過去に、情愛を恐れたことがなかった過去に……
突然聞こえたこの答えは、私のかつての願いとあまりに似ていた。
まだ思考がまとまらない私をおいて、飛燕はそのまま語り続けた。
飛燕:だから、白駝山と少し似ている崑崙山と言い、上様を情に取り付からせていた情花谷といいーー
飛燕:皆ただ在りし日の思い出を思い起こさせていただけだ。
飛燕:それと同時に、すでに過ぎ去った事なのに、もう過去には戻れないとわかっているのに、それを認めることができない私への警鐘でもあった。
分からないはずがない……そう、私は思った。
まるで私にとっての、今見ている剣塚の一本一草ではないのか?記憶でもあり、傷痕でもあった。
しかし飛燕は私に考える猶予を与えないままに私襟首を掴んだ。
飛燕:まさか君が……“過去”でさまよい続けていた私を引っ張り出した君も、私のようになるのか?
無剣:違う、私はただ……
この葛藤する気持ちをどう説明したらよいか分からないまま、私は頭を振った。
飛燕:ただこのままあっさり受け入れられない、そういうことか?
思ったことをまた彼にびしっと当てられ、うまく言葉にできないままただ頷いた。
飛燕:なら、今から努力するんだ。
無剣:えっ?
私の襟首を掴んでいたはずの飛燕の手が、いつの間にか、私の右肩へと置かれていた。
飛燕:以前、私のところで軽功の修業をしたのように、また一から努力すればいい。
無剣:いい……の?私、また“一から”できるかな?
多少の恐れを感じれずにはいられなかった。あの時、氷火島で初めて目を覚ました時のように。
飛燕:なぜ?
私に向けられた飛燕の透き通った眼差しには、当分読み取れない輝きを湛えていた。
飛燕:それに、君はもう一人じゃない。
飛燕:もしまだ私が、君が言う“大事な友達”なら……それなら私も、私もそう思っている。
飛燕:だから、君が前に進もうとこのまま後ろへ下がろうと、私は君のそばにいる。
飛燕:私達は……ともに“過去”に縛り付けられたことがある者同士だからな。
無剣:……わかった。
無剣:ありがとう、飛燕。
飛燕は視線を下に逸らし、手を伸ばして私の視線をそっとかすめた。
そして私が知る限りで、彼の今までで一番優しい微笑みを目にした。
飛燕:“ありがとう”は無しだ。
そうやって彼と笑いあっているうちに、いろんな事が溶けていった。
同盟会話
○○の飛燕:霊蛇様が授けてくださった武功を練習しているところなので、邪魔しないでくれますか。
○○の飛燕:用がないなら、帰ってください。
○○の飛燕:便乗して霊蛇様の新しい絶技を盗み見しないでください。
〇〇の飛燕:閣下はこの辺りで霊蛇様の姿を見ませんでしたか?
〇〇の飛燕:ええ、急用ができたので今すぐ霊蛇様に報告しないと。
〇〇の飛燕:伝言は結構です。部外者に知らせてはいけないことですので。
○○の飛燕:先日霊蛇様と光明頂を訪ねたとき、聖火のある旧友の話を聞きました。
○○の飛燕:その人は軽功に卓絶していて、気配を徹底的に消せるようです。まるで幽霊のように。
○○の飛燕:どちらの足が速いのか、一度勝負してみたいものですね。
判詞
二句目 燕のように雪踏んでも跡なし
三句目 出会いが困るほど煩わしく
四句目 常に爽快に簡単に処置をする
五句目 師匠を探す旅に苦しんできた
六句目 今でも時々あの頃を思い
七句目 去る者はこのように笑って
八句目 手をつないで未来へ赴こう
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