仙凡の旅
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仙凡の旅
異界の人
テンジャは黙って首を横に振った。何かを話そうとしている瞬間、突然顔色が変わり、警戒し始めた。
合歓:ふーん、ここ、敵がいるんだ。
テンジャ:周りの邪気からすると、結構な数がいるようですね。
合歓:あたしたち歓迎されてるわね、こんなに早くかけつけてくるなんて、あんたが目当てかしら?或いはあたしかしらね。
魍魎:オオオオオオオ
合歓:あっ、何こいつら、あんた見たことある?
テンジャ:私もこの土地は初めてだ、見たことあるわけがない。
合歓:なら一匹捕まえて、ここがどこか詳しく聞いてみよっか。
合歓は法術を使ったが、何も起こらなかった。
合歓:はぁっ!あたしの法術が使えない、こいつら魂魄がないんだ、ど、どうして?
テンジャ:危ない!
テンジャは二人に続々と襲ってくる魍魎を斬殺している。
合歓:ふっ、こいつらきりがないわ、このままだと…殺されなくても疲れてバテちゃう。
テンジャ:なにか聞こえぬか?
合歓:何が?……あっ、誰か近くにいるの?
テンジャ:私が化け物を引き付けます、その間にあなたは人を呼んできてください。
合歓:うん!あたしが戻ってくるまでうまくやりなさいよ!
合歓は魍魎たちがテンジャに引き付けられている隙をみて抜け出し、人の声がした方向へと駆け出した。
合歓:ねぇ!そこのきみ、助けてくれる?
無剣:どこからか人の声が聞こえるような…誰かが助けを求めているのかな?
まさかこんな人里離れた荒野にも人が?
合歓:ねぇ!そこのきみ、そうきみ!早く来てよ!
無剣:私?
合歓:そうだよきみだよ、こんなところにきみ以外いないでしょう?
合歓:早く、こっちだよ!
ぼーっとしている間に目の前の少女に手首を掴まれるや、無理やり引っ張られて走らされた。
あっという間に、私は魍魎の群れに囲まれている道士の身なりをした男性の姿を視界に捉えた。その道士は片手で術を放ち、もう片手で剣を振り回していて、魍魎はちっとも近づくことができない。
魍魎たちは私たちを見つけた瞬間、襲い掛かってきた
仙人の惑
テンジャ:この化け物どもは実に奇妙だ。何故ここに集まったのだろうか…
無剣:これは魍魎という、心も魂も失った妖怪です。彼らは人を襲います。
合歓:ということは…きみ、ここの人だよね。
無剣:そう、あなたたちは誰なの?
合歓:あたし合歓っていうの、こいつはテンジャ、君は?
無剣:私は無剣です。
無剣:あなたたちはどうやってここに来たの?
合歓:あたしたち、とある古い仙人の洞窟でお宝を探してたの、でも間違ってトラップの陣を踏んじゃったみたいでね、黒い渦に巻き込まれて、気づいたらここにいたってわけ。
無剣:黒い渦?まさかねじれの隙間ですか?
合歓:へぇー、あの陣が作り出した黒い渦はねじれの隙間っていうんだ。
無剣:うん、その裂け目は五剣の境の揺らぎによってできたもの。実はそれが異界への通り道なんだ。
合歓:えっ?じゃああたし達、異世界に来ちゃったの?碧瑶復活まであとちょっとだったってのに…
無剣:心配しないで、帰る方法はきっとあるはずです。
謎の法陣
魍魎:オオオー!
彼は薄ら笑いを浮かべた。明らかに何か企んでいる!
私は合歓とテンジャに五剣の境について説明した。
合歓:なるほど、そんな恐ろしい災厄がこの世界を襲っているのね…
テンジャ:貴殿の助けを得ることができて、私と合歓は幸運だったようだ。
無剣:遠慮しないで、今はあなた達をどうやって元の世界に戻すか考えましょう
合歓:ねじれの隙間から戻れないの?
無剣:確かに、ねじれの隙間は異なる世界を繋ぐ通り道だ。ねじれの隙間と、その中にある虚空を通れば元の世界に戻れるはず。
無剣:ただ、少し問題があります。
合歓:問題?
無剣:これまでにねじれの隙間がいつ開くのかを予測できた人はいないし、どうやって開くのかも誰も分かっていないんだ。
合歓:となると…あたし達、ずっとこの場所でねじれの隙間が開くまで待ってないといけないの?
テンジャ:そうでもないでしょう。
テンジャはそう言いながら、地面に法陣の模様を描いた。
合歓:これって、あたし達があの時ふれちゃった、あの陣!
テンジャは頷いた。そして合歓は法陣に近づき研究し始めた。
合歓:テンジャ、あんたすごいわね…あの陣見る時間なんてほとんどなかったのに、こんな完璧に再現できるほど記憶しちゃうなんて…
テンジャ:しかし、目下陣を書き出すより、如何に起動させるかが問題だ。
合歓:霊力を注入してみる!
合歓は霊力を法陣に注入したが、かすかに光った後、何も起こらなかった。
合歓:あれ…また何にも起こらない。
魍魎:オオオー
合歓:どうしよう?陣は動かないし、逆に魍魎を引き寄せちゃったみたい……
テンジャ:ここは私に任せて、貴殿らは陣を守ってください。
狼狽な道
テンジャ:どうやらこの陣は、起動はせずとも魍魎を引き寄せるようです。このままでは更に魍魎が集まる可能性が…この場所に留まるのは得策ではありません、一旦移動しましょう。
無剣:確かに、急いでここを離れたほうがいいです。
合歓:あっ!また向こうからたくさん来たわ、こっちに逃げましょ!
???:なに?
魍魎:オオオー
木剣は薄ら笑いを浮かべた。彼が必要な情報をすでに得たことは明白だ。
???:良かろう、奴らの後を付けろ。
執拗な追手
テンジャ:ここの邪気は薄い、障りなかろう。
合歓:もう一回あの陣、試してみる?
無剣:あの法陣が魍魎を引き寄せる以上、もう一回描いてもまた魍魎を引き込むだけかもしれません。
合歓:うーん…ならどうしよう、このまま魍魎に追い掛け回されるわけにもいかないし…
合歓:そうだ!もしこの世界にねじれの隙間がたくさんあるなら、その内の一つに行ってみようよ、もしかしたら、なんか分かるかもしれないよ!
無剣:この世界で一番ねじれの隙間が発生するところなら知ってますーー祁連山という山です。
合歓:きみは…あたし達と一緒に行ってくれるの?
無剣:はい、私もちょうど祁連山に行くつもりでした。
合歓:それはよかった!行こう!
何日もかけて、ようやくねじれの隙間の中心地たる祁連山の頂上へと辿り着いたが、私たちを待っていたのは敵の群れだった。
無剣:どうしてここにも魍魎の群れが?
テンジャ:ここに来るまで、数日を要しました。おそらく敵は、その間に準備を整えていたのでしょう。
合歓:敵?ということは、この魍魎の裏には、誰か黒幕がいるってこと?
テンジャ:ここに来るまでの旅路で、気づきませんでしたか?
テンジャ:すすむ間、常に魍魎や黒幕と思しきものが後ろをついてきていたことに。
無剣:私たちが監視されていたってこと?
魍魎:ゴゴゴゴゴゴオォォ!
テンジャ:まずは、目の前の敵を殲滅だ。
疲労困憊
無剣:敵が手強い、何とかして敵の視線から逃れないといけません。
合歓:はぁ…誰があたし達を追っているのか分かればいいんだけど…
テンジャ:話をしている暇はありません、付いてきなさい。
隙間の在処
突如ねじれの隙間が何もない空間に現れた。巨大な黒い渦がすべてを呑み込もうと辺りを切り裂きはじめ、空気までもが呑み込まれた。テンジャが私を引っ張っていなかったら、未知の空間に閉じ込められていただろう。
無剣:ありがとう、さっきは危なかった。
テンジャは微笑んで頷いてくれた。後ろに立っている合歓はなぜか巨大な渦をぼーっと見ていると、何かひらめいたようだ。
無剣:合歓、どうしたの?
合歓:なんでもないわ。テンジャ、あんたこのねじれの隙間と陣の関係、どうみる?
テンジャ:陣と隙間はお互い共鳴しているようにみえる。そして何か二つを繋げるものが必要なようだ。だから我々は陣を起動できなかった。
無剣:つまり、足りないものさえ見つかれば、裂け目が開いて元の世界に戻れるんだね?
テンジャ:その通り。
合歓:今の問題は、それが何かってことよね。
テンジャは無言で首を振り、合歓はため息をついた。どうやらまた行き詰ったようだ。
無剣:ひとまず休憩しませんか。手掛かりがない以上、考えても答えは出ないでしょうし。
そして私たちは裂け目の近くで休憩を取った。数日間駆け回った苦労と戦いの連続で、みな相当に疲れていた。夜更け頃、私はすすり泣く声を耳にした。
合歓:碧瑶、あたし、絶対君を救い出す…小凡…
無剣:合歓、その……
テンジャは寝言を呟く合歓を起こそうとした私を制止すると、私をそっと引っ張って隣に座らせ、夢の中の合歓を静かに見守っている。
無剣:テンジャ、今のはいったい……?
テンジャ:合歓は自らの主人碧瑶の魂をその体に取り込んでいる、そして彼女を復活させることが合歓の宿願なのだ、私は主人の命を受け、合歓を守っている。
無剣:じゃあ、小凡というのは?
テンジャ:碧瑶の恋人だ、合歓は自分の中にいる碧瑶の魂と思念が通じあっている、だからその名が出たのだろう。
無剣:だからずっと碧瑶を復活させる方法を探しているんですか?
テンジャ:まさに…既に幾星霜を越えたのかさえも忘れた。
テンジャは急に立ち上がり、合歓を見つめていた。合歓の体に強い息吹が現れだしたのだ。私とテンジャは彼女に向かって駆け出したが、あろうことか、合歓の腕に触れた瞬間に猛烈かつ神秘的な力が私の体を穿ち、テンジャもろとも謎の空間に閉じ込められた。
テンジャ:ここは?
無剣:魍魎です!話は後で!
テンジャ:いくぞ!
夢中の再会
合歓:あたしは大丈夫……なんか長い長い夢を見たわ……あたし、滴血洞に囚われて、そして…そして…
合歓は目に涙を浮かべているようだ。
テンジャ:気にするな、休みなさい。
合歓:私は大丈夫…さっき私たちどうなったの?
私はさきほどのことを合歓に話した。合歓はいつもの元気な姿とは打って変わり、長い沈黙を保っていた。
私とテンジャは合歓の邪魔はせず、合歓は膝を抱えて一人で夜通しずっと草地に座っていた。
過去の夢
合歓:こいつら、あたしたちを生け捕りにしようとしてるみたい!
無剣:捕まえてどうするつもりなの?
テンジャ:おそらく黒幕に突き出すのだろうな。
無剣:まさか…あいつ、自ら手を出すつもりなの…
テンジャ:あいつ?
無剣:この世界を破壊し、魍魎を作り出したあの人ーー木剣!
合歓:もしその人が来たら、おそらく勝ち目はないわ!早く逃げないと!
テンジャ:私たち三人の力では、この包囲を突破することはかなわないだろう。
合歓:あたしにいい考えがある、昨日の夢、覚えてる?
テンジャ:夢?
合歓:こいつらが焦ったのは、きっと昨日、あたしたちが夢に消えたからだと思うの、だから夢に入ればいいのよ!
無剣:そうして彼らの監視から逃れられたら、私たちは夢の中でゆっくり法陣の研究ができて、お二人を元の世界に戻せるんですね!
合歓:そのとおり!
テンジャ:いかん!
無剣:どうして?
テンジャ:昨日、お前は危うく目を覚ませなかったことを忘れたのか!碧瑶の記憶に沈んだが最後、お前の魂魄も戻ってこれなくなるだろう。
合歓:なるほど、ということはあんたは既に夢に入る方法が分かってるってことよね
テンジャ:私の話を聞け!お前の魂魄と碧瑶の魂は…
合歓:あんたはどうやって夢に入るか教えてくれればいいの。
テンジャは黙黙としている、心の奥で何か厳しい選択をしているようだ。その時、遠くから強大な気配が感じ、危険が迫ってきていた。ついに、テンジャは一つの見知らぬ法陣が刻まれている物を合歓に渡した。
テンジャ:思念を集中させれば、陣が発動し、夢に入れる。
合歓はどこからか一匹の野兎を見つけると、気をつけながら炙った。炙り方は非常に特別で、すぐ香りが一面にあふれ、そして瞬く間に夢が合歓の身に訪れた。テンジャと私は急いで合歓を掴み、次の瞬間、謎の夢へと入っていった。
無剣:テンジャ、合歓は目を覚ましたの?
テンジャは首を横に振った。夢に入り込んで既に数日が経ったが、合歓は相変わらず目を覚ます気配が無い。テンジャと私は色々な方法を試したが、合歓を起こすことができなかった。テンジャによると、合歓が目を覚まさない限り私たち自身もこの夢から離れることができないらしい。
無剣:私たち、どうすればいいかな?
テンジャ:待つのだ。
無剣:このままだと、合歓はよくならないのでしょう?
テンジャ:……
無剣:私に一つ方法があります。もしかしたら合歓を覚醒させられるかもしれない。
テンジャ:ほう?どんな方法だ?
無剣:私は以前、夢に閉じ込められた人に会ったことがあります。
彼らはとある法術で夢の世界に進入しました。この世界とその世界はよく似ているから、私たちがその時に見た陣を参考にしてみるのはどうかな?
テンジャ:陣?
テンジャは眉をしかめながら、その法陣を注意深く研究し始めた。長い時間が経った後、彼はやっと眉を緩めた。
無剣:何か分かった?
テンジャ:この方法…いけるかもしれない…
テンジャ:この法術なら、合歓の夢に入れるかもしれん。
無剣:可能性は大きくないの?
テンジャ:まず、この方法は成功するかどうかわからない、合歓の夢に囚われてしまうかもしれない。そして、この方法は多くの夢妖を誘き寄せてしまう。
無剣:成功するかどうかは私たちの運次第、夢妖は魍魎と同じ、もし来たら消滅させればいい。
テンジャ:とは言え…厳しい状況になるだろう…
無剣:待っていても何も変わらない。とにかく試してみよう。
テンジャ:…では、そう致そう。
テンジャは法術を展開しはじめたが、瞬く間に意識を失った。そして謎の息吹きが巻き起こるや、夢妖の群れすぐさまやってきた。
思慮幾多
無剣:よかった…ようやく目を覚ました!
合歓:君の手助けが無ければ、あたし達やばかったかもね。
テンジャ:かたじけない。
無剣:さきほど周りを探索してみたけれど、魍魎は現れていないですよ。
合歓:あぁ…それは良かった。
無剣:これからどうしますか?
合歓:次より、先に一息つこうと思うんだけど。
無剣:うん、そうしましょう。
テンジャ:では、休むとしよう。
あっというまに野営地が整うと、私たちはそのまま静まりかえり、まぶたも段々重くなってきた。突然なにやら声が聞こえてきたが、どうやら合歓が何かを吟じているようだった……
合歓:あふたのみこそかなしけれ 我が身むなしくなりぬと思へば
テンジャは合歓が詩をひそかに吟じていることを耳にするや、急に起き上がり、月の下で剣舞をはじめた。身にまとう服は雪より白く、まるで蝶が月光のもとでゆっくりと舞い上がっていくようだ。抑揚のある朗唱が加わることで、一つのなんとも言えぬ悲しみが湧き上がり、私の胸を刺した……
無剣:本当に綺麗…
合歓:……
テンジャ:……
昨夜はどう過ごしたのか分からない。ただ夜色の白い影と軽やかな吟唱が心に残っている。
合歓:きーみ、起きた?
無剣:うん、二人はこれからどうするの?
合歓:一つ考えがあるの、でもあいつもあるみたいね…
無剣:教えてください。
合歓:昨日、夢に入ろうとしたけど、失敗したの。だから夢の力はあたしたちが元の世界に戻る鍵だと思うんだ。あたしたちが来た場所に戻って、夢の力でねじれの隙間を開ければ、あたしたち、元の世界に戻れるわね。
テンジャ:我らは夢の力についてまだ理解が足りない、お前の命をかけるようなことを許すわけにはいかない。
合歓:あんたは慎重すぎるのよ、もし戻ることが出来るなら、あたしは何でも試す、例えどんなに危険だろうと。
無剣:喧嘩は止めて、テンジャは何か考えがあるの?
テンジャ:私は、まずは陣と裂け目の関係を明らかにするべきだと思います。合歓の夢の世界は非常に危険です、私たちが御するのは容易ではない。
合歓:きみはどう思うの?
無剣:合歓の言う通りだと思う
無剣:今はいつ木剣に追いつかれてもおかしくない状況です。できるだけ早く戻れたほうがいいかもしれない。
合歓:どう?あんたも文句ないでしょ?
テンジャ:合歓の命を賭する行為、私は容認できん!
合歓:あんた本当に頑固ね!あたしが碧瑶を復活させるのを邪魔したいわけ?
無剣:今はいつ木剣に追いつかれてもおかしくない状況です。できるだけ早く戻れたほうがいいかもしれない。
合歓:どう?あんたも文句ないでしょ?
テンジャ:合歓の命を賭する行為、私は容認できん!
合歓:あんた本当に頑固ね!あたしが碧瑶を復活させるのを邪魔したいわけ?
無剣:テンジャの言う通りだと思う
無剣:だけどその方法は危険すぎます。あなたの命を賭けるわけにはいけません。もっと安全な手段を考えたほうがいいと思います。
合歓:なんで?きみもあいつの味方をするの?人を助けることが一番重要なのよ?あたしたちがここで時間を無駄にするほど、碧瑶が復活する希望も薄くなっていくのに…
テンジャ:いかん!
合歓:あんたっ……!あんたがそんなこと言うなんて……そうよ、あんたはそうよ、あんたは碧瑶を復活させたくないんでしょ?
テンジャ:……無剣:だけどその方法は危険すぎます。あなたの命を賭けるわけにはいけません。もっと安全な手段を考えたほうがいいと思います。
合歓:なんで?きみもあいつの味方をするの?人を助けることが一番重要なのよ?あたしたちがここで時間を無駄にするほど、碧瑶が復活する希望も薄くなっていくのに…
テンジャ:いかん!
合歓:あんたっ……!あんたがそんなこと言うなんて……そうよ、あんたはそうよ、あんたは碧瑶を復活させたくないんでしょ?
無剣:私の話を聞いて、このままじゃ決められない!
合歓は苛立ち、テンジャは無言のまま座り込んだ。
無剣:じゃあこうしよう、二人まとめて私と勝負しよう。私が勝てば、言うとおりにしてくれる?
合歓とテンジャは相変わらずぴりぴりしているが、渋々同じ方に立って構えた。どうやら、意見に賛成してくれているようだ。
驚愕な転機
テンジャは突然驚喜しながら手元の法陣を見はじめた。その法陣には溢れるほどの力があり、いくつもの光の筋が果てのない虚空を指し示しているようだった。
テンジャ:これは…もしや…
合歓:陣に反応が…どういうこと…もしかして…
二人の視線が一同にこちらへと向けられる。まるで私の身に何か奇妙な変化でもあるかのようだ。
無剣:どうかしたの?
合歓:まさか、陣とねじれた隙間の媒介が…灯台下暗しってやつね!
テンジャ:うむ、見誤っていたとは、失策だ。
無剣:いったいどういうこと?
合歓:この陣を起動する鍵は、きみの力だったの、この世界ときみがどんな関係なのかわからないけど、こんな特殊な力があるなんて…
無剣:まさかこんな…それはきっと運命でしょう。
神機妙算
少し考え込んだあと、彼は闇の中へと消えていった。
何日かの探求の末、テンジャは法陣を開放する能力を完全に手に入れ、ねじれの隙間を開くことができるようになった。
無剣:今すぐにねじれの隙間を開放しに行って、あなたたちを元の世界へ送りましょう。
テンジャ:否、敵の動きがわからないゆえ、木剣は我々の考えを見通しているやもしれません、我々がここにいる事を事前に察知し、罠を仕掛けているやも。
無剣:つまり、木剣の目を引き離さなければなりませんね。
テンジャ:うむ、この機に祁連山に攻撃を仕掛けるのが上策、その後、敵の動きを待ちましょう。
無剣:良い考えです、私も賛成。
私たちはすぐにきびすを返し、祁連山の方へと進んだ。
無剣:けど、あなたたちを戻す機会を作るためにどうやって木剣をここに引き寄せるのでしょうか…
合歓:まず、その人が何故あたしとテンジャを狙っているのか、理由が知りたいわ…
無剣:おそらく…あなたたちを通して異なる世界を行き来する方法を知るつもりなのでしょう。
合歓:そうだとしたら、方法はあるわ、君とテンジャの協力が必要だけど…
テンジャ:ほう?その方法とは?
合歓:もしあたしとテンジャがこの世界を離れたら、敵はあたし達を追うのを諦めるでしょ?
無剣:でも、あなたたちはこっちに来た場所からでしか元の世界へは戻れません…
合歓:その話は、あたし達しか知らないよね、敵が知る由もないわ。
無剣:その上、あなたたちと同行していないところを彼に目撃させることができれば、より効果が出るかもしれません。
三人はこの計画に賛成し、行動方針を決めたーーまずねじれの隙間を一度開放し、テンジャと合歓が離れたように装う。そして私はテンジャと合歓をそれぞれ援護し、こっそりと祁連山を離れる。最後に合流して、テンジャと合歓が初めてこの世界へたどり着いた場所に行く。
無剣:この地にはかつてねじれの隙間があった。ここで裂け目を開放しよう!
テンジャ:うむ、ここは気が安定している、陣を敷くのに適している。
合歓:じゃあ、ここで陣を展開しよう。
テンジャはあっという間に法陣の配置を完了させた。私は陣のそばに立って力をこめた。法陣が私の力に応じ始めると眩しい光を放ちはじめた。
テンジャ:陣は完成しました、早くそこから離れなさい、ねじれの隙間が出るぞ!
無剣:うん、先に合歓と一緒に離れてて。そろそろ魍魎が来ます!
合歓:ここはきみに任せたよ、山の麓で合流しよう。
テンジャと合歓が去ってまもなく、一つの巨大なねじれの隙間が法陣によって空中に現れた。同時に、大量の魍魎が引き寄せられてきた。私はテンジャと合歓とは逆方向に駆け出し、魍魎たちの視線を集めた。
帰還の兆し
全力を振り絞って激戦を経た私は、一生懸命走り出し、しばらくしてからやっと山の下へと到着した。幸いほとんどの魍魎がねじれの隙間と法陣に引きつけられたため、なんとか脱出することができた。
合歓:やったわね!
林間で休憩していると、一つの声がそう遠くないところから伝わってきた。目を凝らしてよく見ると、なんと合歓トテンジャだった。
無剣:どう?見つからなかった?
合歓:あいつら如きに?遅れは取らないわよ。
テンジャ:道中特に気を付けていた、何人にも悟られてはいまい。
無剣:なら良かった。今すぐ出発すれば、魍魎たちにはまだ警戒されないはず…
帰還の途中
テンジャと合歓が離れたふりをした後、私たちはねじれの隙間の在処へ向かうことに決めた。できるだけ早くテンジャと合歓をこの世界から離れさせれば、別の事態が生じて木剣に捕らえられずにすむ。ただ、立て続けに道を急ぐことで、体力は乏しくなっていった。
合歓:はぁ~もうだめ、休む、水が飲みたい!
無剣:私も休憩したい!
テンジャ:うむ、ならばここらで一旦休憩しよう。
無剣:ふぅ、やっと休憩できた…テンジャの体力はすごいね、どうやって鍛えたの?
合歓:あいつはね、毎日山崖に登って剣舞ばっかりやってるのよ、かれこれ十年もそうなの、体力ないわけないじゃない?
無剣:テンジャは本当に根気強いね!
テンジャ:修行に終わりはない、十年如き、指を鳴らす間のようなものです。
無剣:修行は一度始めると何十年もかかると聞いてますけど、それは本当?
テンジャ:修行者ならば、数十年と言わず、数百年こもる方も多いですよ。
無剣:修行長生というのはやはり厳しい道なんですね。
テンジャ:もし修行で長命を得るだけならば、仙と称することはかなわないでしょう。
無剣:修行は長生きするためではないの?
テンジャ:修行の道は天に通じます。天道を守らず、妖魔を滅さなければ、仙になることはあきらめた方がいいでしょう。
無剣:なるほど!
合歓:世界の正邪はそんな簡単に見分けられないわ、何が正しく、何が邪なのか、真の情があれば正邪なんて関係ないわ。
テンジャ:……
沈黙のまま、私たちは道を急いだ。しばらくすると、合歓とテンジャが初めてこの世界に来たときのねじれの隙間の地点に到着した。
無剣:ここにも魍魎がいるなんて…
合歓:あたしに考えがある、任せて。
無剣:どうするの?
合歓は法術を使いながら、勝利の微笑みを浮かべた。
合歓:やっぱり、敵の頭である木剣が離れた今、敵に司令官はいないわ。
無剣:ここを突破すれば…
合歓:その通り、あたしたちは敵を避けて、直接陣を敷くことができるわ。
テンジャ:それは僥倖。
合歓:ただ、あたしたちが陣を起動するとき、魍魎を引きつけてくれないとね…
無剣:私に任せて、いつ動けばいいの?
テンジャ:陣を起動させる時、神剣御雷真訣を発動し、九天神雷を召喚する。その時が動く時!
無剣:了解!
合歓:じゃあ任せたわ、またいつか会いましょう、今度は碧瑶を紹介するわ。
テンジャ:かたじけない。
無剣:待って、これは御守り。肌身離さず持っていて。必ずしも役に立つとは限らないけれど……
合歓:うん、あたし、大事に持っておくね。
テンジャ:失礼する。
無剣:気をつけて!
私はテンジャと合歓が目の前から消えていくのを見ていた。しばらく待つと、空に急に白い光が閃いて、巨大な雷光が空から降り、ほとんどの魍魎を粉砕した。そろそろ頃合いかな。
裂け目再開
木剣:なに、無剣がねじれの隙間を開けた?面白い…
しばらくすると、底を読めない表情を携えたまま、木剣は祁連山から離れていった。その背にある法陣は眩しい光を放ち、巨大なねじれの隙間を引き起こしていた。
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