伏魔 仲合、同盟会話
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仲合物語
杏の花の熟成酒
杏子の花の香りと酒の香りが混ざり、潤った空気の中でそよ風に漂っていると、幻想的な感覚を覚える。
旅の中で起こったいろんなことを考えて、ちょっとばかりぼーっとしていたその時、肩を誰かにそっと叩かれた。
その手は大きくて厚くて、振り向くと目に映ったのは、馴染みの笑顔だった。
無剣:伏魔、やはりここにいたんだ。兄弟と一緒に道を尋ねに行ったんじゃ?
伏魔:はは、もちろん、さっき出たばかりだからな。どうだ、オレと一緒に新しいダチに会ってみるのは?
私は知ってる。伏魔は豪快だから、江湖で友達を作るにも名目や立場を気にしない。
意気投合すれば肝胆相照らす仲となり、たまに何人かの友達と飲みながら雑談し、新しい場所に行く度に、新しい友達ができる。そして旅の間に私の面倒も見てくれる。
彼は酒好きだが、頭が冴えていて、少し大ざっぱなところもあるけれど、失敗したことはない。だから友達に信頼されている。
無剣:伏魔、あなたに会いに来たよ。
伏魔:ほぉ?何の用で?
無剣:特にこれといった用はないけれど、伏魔は顔が広くて、友達も多いから、何か面白いことがあるんじゃないかって思って。ついでにお菓子を作ったから、持って来たよ。
伏魔:俺もまだ探ってるところだ。そういえば、森で杏の木の下に桑落酒を1つ埋めたことがある。もう数年も前のことだ。
伏魔:さあ行こう、おれは荷葉鳥をつくるから、酒を埋めた場所へ行って、食って飲もう。もしかすると、何か手がかりを思い出せるかもしれん。
無剣:私たち二人で?あなたの友達は呼ばないの?
伏魔:美酒と菓子だぞ、ははっ、持ち帰ったら一瞬でなくなっちまう。
無剣:意外。伏魔もケチるときがあるんだね、珍しい。
私は横で冗談を言って、悪ふざけのような顔をした。彼はちょっと照れて、頭を掻きながら笑った。
伏魔:それはその、お前が手間をかけてわざわざオレに用意してくれたもんだから……その厚意を無下に出来るもんか。
無剣:まぁまぁ、冗談はここまで。顔真っ赤になってるよ。知らない人が見たら桑落酒の匂いがすごすぎて、少し話しただけで酒食らいの伏魔まで酔ったのかと思っちゃうよ。
話せば話すほど、私は伏魔の表情を見て、思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。
伏魔:お前なあ……行こう行こう。ついて来ないと、うまい荷葉鳥にありつけないぞ。
それを聞いて、私は急いでついて行った。
江湖の義侠
伏魔:ここが酒を埋めた場所だ。綺麗だろ?
無剣:うん!綺麗だね……
伏魔:はは!ここは豊かな土地だ、森の中は広々としていて、稽古に向いてる。いつか兄弟たちを呼んで、共に訓練に励みたいところだな!そうだ、何か思い出したことはないか?
私は頭を横に振った。
無剣:なにも。でも、ここの杏の花は本当に綺麗だね。もし木の上に登って曲がりくねった枝に座り、花が入り乱れて散る美しい景色を眺められたら、きっと素敵だなと思うよ。
無剣:昨晩、私も偶然ここに来たよ。ここの風と水は甘いの。伏魔に贈ったお菓子はここの杏で作ったんだ。
話がまだ終わらないうちに伏魔は突然私の腰を抱き寄せ、耳元で風がサーッと鳴るなか、私は反応する間もなくその曲がりくねった枝に座らされていた。
無剣:あっ……兄貴の身のこなしって本当にすごいね。
私は焼き鳥を抱えていたので、一瞬体がふらついた。伏魔はそれを見て、片方の手で酒を引っ張り上げ、もう片方の手で私の腰を強く抱き寄せた。私が滑り落ちるのを心配しているのだ。
彼の大きな手は熱くて、腰にぴったりと触れている。私は全身が熱くなってきた。
伏魔:じっとしていろ。
無剣:じ、じっとしてたよ……放しても大丈夫だから。
彼は手を離して、私に微笑んだ。私はうつむいて、思わず顔が更に赤くなった。
彼はそれに気づかないまま、うつむくや粘土で塞いだ酒壺を出し、お菓子が入っていた鞄も開けて、顔を上げるや酒を大きな一口で飲んだ。
伏魔:いい酒だ!ここの景色はこんなにも風光明媚だしな。満腹になったら、少し武芸を教えてやろう。
無剣:うん、いいよ。
私は彼に微笑んで、手にある蓮の葉包みを開いた。その熱々の焼き鳥を見て、何度も裂こうとするが、なかなか要領が掴めなくて、助けを求める目で彼を見つめた。
伏魔:どうしたの?
無剣:熱い……
少し火傷した手に息を吹きかけていると、案の定、伏魔がこっちを見るや酒とお菓子を置き、焼き鳥を手に取った。いくつかに裂くと、また渡してくれた。
無剣:ありがとう!
伏魔:さあさあ、早く食べよう。冷めたらまずいぞ!酒もどうだ?
無剣:うん、少し頂くよ。
小さな盃を取り出し、彼からお酒を受け取った、焼き鳥を楽しみながら、酒を少しずつ味わう。
伏魔は傍らで微笑みながら私を見つめていた。
武芸を導く
伏魔:おお!なんだこれは?ちょっと待て、分かったぞ……さては、武芸の型だな?うん!よく出来ているな!どこで学んできたんだ?
無剣:ふふ、正直に言うと、こっそり学んできたんだ……
伏魔:これは俺の武芸じゃないか?お前……いつ覚えたんだ?
無剣:この間、伏魔が兄弟たちと試合をしていた時に何回か見ていたら覚えたよ!
伏魔:ほほう!お前がこんなに賢いとは分からなかったな!だがこの武芸の型は……
伏魔:うむ、形は成しているが要の部分がいまひとつ足りないな。来い、さっき武芸を教えてやると言ったからな、今から少し教えてやろう。
無剣:うん、ありがとう。
話が終わると、彼は私の腰を抱き寄せ、そのまま木から飛び降りた。
地面が少しデコボコしていて、足元が定まらないうちに倒れかける。幸い伏魔がそばにいたため、手を伸ばして私を支えてくれた。その拍子に私は彼の肩にぶつかり、その温かさと逞しさから酔いもまわって顔が真っ赤になってしまった。
伏魔:気をつけな。
無剣:だ、大丈夫です、ありがとう……
私がしっかり立ったのを確認すると、伏魔は手を離した。それぞれ枝を一本拾い、一礼をして、稽古を始めた。
伏魔:お前はいろんな面に長けているな、見たところ、そう遠くないうちにその名が天下に轟くだろう。
無剣:伏魔の教えがうまいからじゃないかな?
無剣:伏魔の腕前はこんなにもすごいから、天下を制覇した暁には、傑出した君主になるだろうね。そうなったら、毎日いい酒と肉を奢ってもらおうかな~
伏魔:はは、それは買い被りだな。江湖で数年間放浪して、もうそういう日々が染みついちまった。毎日お前と歩いて、違う景色を眺めて、そして兄弟らと酒を飲んで試合をする。それで十分だ。
伏魔:天下を制覇するなんて、はっ!その気はないな。
伏魔:みなが息災ならそれでいい。兄弟たちーーおう、もちろんお前もな。時々集まって、みなが元気で、そしてお前たちが探しているものも探し出せれば、それで満足だ。
伏魔:うまい酒やうまい肉が欲しければ、いつでもオレのところに来い、奢るから。天下を制覇する必要がどこにある?今のままでも十分愉快だろう!
無剣:伏魔は豪快で無欲だよね。それを求めるのは、本当に兄弟たちのことを家族として見ているからなんだね。
伏魔:江湖で知己を得ることは難しい、兄弟のいるところが居場所だぜ。
話が終わり、伏魔は豪快に笑った。杏の花がしきりに落ち、彼の型に舞い落ちた。それがまた彼の洒脱で自由気ままな性を際立たせる。率直で朗らかな中に、人一倍男らしくて、優しい一面もある人。
無剣:伏魔。
伏魔:うん?どうした?
無剣:これからも、私に武芸を教えてくれる?
伏魔:は!お安い御用だ。やりたいようにやれ、遠慮するな。出来る限り教えてやろう!お前は料理上手だからな、時々うまいい料理を作ってくれればいい。兄弟たちも喜ぶだろう!
無剣:じゃあ約束!指切りしよう、やっぱり無しはダメだからね!
伏魔:指切りか。子供ぽいな、約束を違えたりなどしないさ!
伏魔はおかしそうに笑ったが、手を伸ばして、丁寧に私と小指を絡め合わせてくれた。
友と飲み合う
私は左手に酒を、右手に焼き鳥をもって、山頂にある大きな盤石に飛んだ。伏魔は体を大の字にして寝そべって、心地良さそうだ。
無剣:気持ち良さそうだね、何を考えているの?
伏魔:よう!来たか、お前のことを考えていたところだ。
無剣:私?
思わずぽかんとして、無意識に彼の目の奥を見つめた。その瞳の中には率直な優しさが溢れている。
伏魔:うむ、あの日、杏の木の下でのお前は、綺麗だった。また……何かいい物でも持ってきたのかと思っていたところだ。
伏魔は豪快に笑って起き上がると、私の手にあった酒を奪い取った。瓶の口を塞いてる泥を破り、夢中で匂いを嗅いでから、顔を上げ酒を豪快に飲んだ。
伏魔:は!いい酒だ!どこで見つけた?
無剣:自分で調合した蜜酒だよ、気に入った?
伏魔:気に入った。お前が作ってくれるものは、オレは全部好きだ。
伏魔は焼き鳥を受け取り、大きな一塊ぶん千切って食べ始めた。
伏魔:この焼き鳥はよく焼けている。皮はぱりぱりしていて肉は柔らかく、酒の肴にぴったりだ。誰が作った?いい腕前だ。
無剣:道端で買ってきたんだ、気に入った?
伏魔:気に入った!
伏魔はまた酒を大きな一口で飲み、ゆっくり味わった。
伏魔:いい、いい。この酒は混じりけがなくコクがあるな。
伏魔:ええと、前にお前は蜜酒を醸造したいから蜂蜜が欲しいと言っていたな。結局妙手のやつがスズメ蜂の巣を取ってきたという話だったが、酒は醸造出来たのか?
無剣:今伏魔が飲んでいるのがそうだよ。味はどう?もし気に入ったなら、今の作り方でもっと醸造するよ。
無剣:そういえば……ふふっ、あの日妙手兄さんは頭をハチに刺されてたくさんのこぶが出来てたんだよ。気の毒だから、彼にも一つ贈ろうかな。
無剣:妙手も妙手だ、よく確認もせず安易にスズメ蜂の巣を取ってきて、オレまであっちこっち逃げる羽目になって散々だったな。
無剣:そういえば、伏魔。妙手兄さんと何時から知り合ったの?初めて会った時もあんなふうにそそっかしかった?
伏魔:あいつはな……
伏魔はもう一口酒を飲んで、気持ちよく目を瞑ると長い間沈黙いた。江湖で痛飲し、思うままに生きていた頃のことを思い出しているのかな。
無剣:伏魔?
伏魔:はは!妙手のやつはそそっかしいが、腕前は確かだ!あいつの名前が出た拍子に、あの洒脱な歳月を思い起こしてきちまったな!
伏魔:あの頃オレたちは各地を旅していたんだが、気の合う友にたくさん出会えてな、楽しいのなんのって!
伏魔:そして今、それにお前も加わって……ははは、こんなに嬉しいことはない!
彼は顔を上げて酒をまた大きく一口で飲み、酔いしれた表情をいた。
無剣:伏魔。この酒には蜂蜜が入ってるけど、アルコール度数は高いから、あまり飲み過ぎないで。酔っちゃうよ。
伏魔:酔う?
伏魔は酒瓶を揺さぶって、朗らかに笑った。
伏魔:こんな小さな甕(かめ)、あといくつ飲んだところで酔わんさ!兄貴というのは何が一番強いか知っているか?酒に一番強いんだ……うん、だがなんでお前が二人いるんだ?
伏魔は起き上がろうとするが、体がふらふらして、足元もおぼつかない。私は前に出て彼を支えた。あの日、杏の森で彼が私を支えてくれたみたいに。
あの日、杏の花の雨の中。私は彼の肩に寄りかかり、温かさを感じていながらとても安心していた。
今、明るい月の下で、盤石の上で、酒の香りが溢れる空気の中で、私が彼を支えている。彼は突然笑ってくれた。爽やかな風のように、明るい月のように。直後、その力強い腕で、私を腕の中に抱き寄せた。
無剣:伏魔……あなた酔っ払ってるね。
伏魔:酔っただと?いいや酔ってない。ただこの景色を前に、見とれていただけだ。疑うんだったら、ほら、まだ飲めるぞ。
彼は私の肩を抱き抱えながら片手で酒を持ちあげ、残りの蜜酒を一気に飲みきった。甘い酒の匂いと共に耳元に息が吹きかかり、思わず呼吸を止めた。
伏魔:ほら、オレは酔ってない、まだ飲めるぞ……は!例えあいつらが酒を持ってきたとしても、まだ何杯も飲める!
無剣:はは……伏魔、今度は酒に水を入れないとね。
私は笑っていると、急に足元へと転がってきた石ころを踏んでしまった。思わず慌てたが、伏魔の腕がすぐさま私をギュッと抱きしめたーーそうだ、今は彼がいる。彼がいるのに、まだ不安になる必要がどこにあるんだろう?
今、こうして過ごせているのなら。これから旅の道中もきっと、同じように過ごせるだろう。私はそう思いながら、幸せそうに笑った。耳元には、伏魔の朗々たる声が届いた。
伏魔:いいや!これでちょうどいい。気持ちよく飲める!そうだ!前に武芸を教えてほしいと言っていただろう?さあほら、もう少しばかり教えてやろう。
伏魔:ほら、こうやって手を振ってみろ。そうだ……そうそう……そのとおり……ははは!
空の果てに紅色がだんだん消えていき、夜色が大空を覆い、月の明かりは水のように屋根を照らしている。
伏魔:ははは!ほら、酔ってないだろ!
彼は私の手を掴んで、一つずつ武芸の型を教えてくれた。長い夜に、彼の笑い声と酒の香りが混じっていった。
同盟会話
○○の伏魔:江湖中で一番尊敬している人というならば、全真教の霊虚道長その人に他ならない。
○○の伏魔:彼はオレたちと同じくらい悪をこの上なく憎んでいて、敵を殲滅するために単独で敵の巣まで追いかけたこともあるほどだ。
○○の伏魔:誤解による喧嘩で知り合ったのだが……ははは、その件はさて置くか。
○○の伏魔:オレたち兄妹は江南出身で、地元ではちょっとだけ有名だったんだ。
○○の伏魔:他人から見ればオレたちの武功は大したものじゃないが、
○○の伏魔:邪悪な妖魔を討つためなら、命をかけるのも惜しくはない。
○○の伏魔:虎ちゃんは砂漠の北にいたときにとった弟子で、オレたちにとって唯一の弟子だ。
○○の伏魔:ちょっと馬鹿な子だが、根は純粋で善良で正義感を持っているから、とても好ましく思っているよ。
○○の伏魔:将来はたくましく育って、立派な男になって欲しいところだな。
判詞
二句目 世を遊歴して万里に向かう
三句目 任侠の友達と一緒にいた時を思いだし
四句目 林で彼らと酒を共に飲む
五句目 魔の心が千の花をも揺り動かす
六句目 目の前で月を清める。
七句目 肺腑まで照らされ酒を飲み尽くし
八句目 次はどこへ進むのか教えてくれ
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オレたち兄妹は江南出身で、地元ではちょっとだけ有名だったんだ。
他人から見ればオレたちの武功は大したものじゃないが、
邪悪な妖魔を討つためなら、命をかけるのも惜しくはない。0
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