昼夜の彼方
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※時間軸は六章より前ですが、プレイヤー名は無剣と表記しています。
昼夜の彼方
忘れたこと
黄昏時も間近になると、私は碧水寒潭へと赴いた……
無剣:この夕暮れの景色……なんだか懐かしい感じがする……
……昔……ここに来たことがあるのか?
まさか……
無剣:碧水寒潭で見た……四つの祭壇……
お祭りのために作ったのかな……それとも……
無剣:はは、たった一瞬のことでここに来たことあるなんて……
きっと緑が怪我をして私も落ち着けなくなったんだ。
あの時引魂鏡に集中していたから、襲いかかって来た暗器にも気づけず……
無剣:でも、あの感覚はまるで自ら経験したかのようで……
そういえばこの前の谷雨祭の時、ここで微かに独り言が聞こえたけれど……確か……
私は記憶を辿って碧水寒潭を周り、声の在処を探した。
まるで何かに惹かれるように、思わずその場所を歩いていた。
無意識のうちに、何かが自身に信念を与えている、何かを見つける信念を……
少し歩くと、ちらっと輝いた光点が私の目を引き寄せた。
中央の芝生の上に、一枚の真っ白な玉佩が転がっていた。
無剣:これは?!
精巧な白魚の玉佩は太極図の陽魚と瓜二つ。
純白の体に真っ黒の目、遠くから見ると柔らかく優しく光っていて、近くから見ると、一点の瑕疵(かし)も見つからない。
触った途端、強烈な震えが指先から脳内まで伝わり、私は跪いた……
その瞬間、嵐と共に、聞いたことのない二つの声が相次いで響いた。
玉佩の中の光が急速に拡大し、身動きが取れない私を眩い光球の中へと包み込んだ。
光球の表面にたくさんの映像が過ぎ去り、意識を失った私に忘れ去った記憶を訴えた……
???:はは、この黒い裂け目はすごいですね。
???:これで、本当に逃げ場がなくなりました。
???:陰陽のことわりを悟ったお前が、そのような弱音を吐くとはな。
???:なに!あなたとの戦いはこれが最後というわけではありませんよ。
???:昼夜が別つとも…
……
???:これは谷の中の絶景だ。どう思う?
???:素晴らしいですね。とても素晴らしい!お酒は持ってきましたか?
……
???:この部屋の主はきさくなお方です。ちなみに彼はこの絶情谷において最も優れた剣術をお持ちのようです。先に彼と手合せをしてみてはいかがですか。
???:手合せに過ぎない。勝負にこだわるな。
???:境地の差に関しては、身の程はわきまえております故。
???:お前というやつは…この者は?
???:こちらは私の客人です。強い人と手合せをしたいそうですので、顔を立ててくれませんか?
???:強いものと戦うためにここへ来たか。なら多くを語る必要はないな。
???:お先にどうぞ。
まるで雷鳴の如く、黒ずくめの青年はいきなり強力な刺突を繰り出し、相手の胸を貫こうとしたが、
顔がよく見えない客が軽やかな歩法で躱しながら、回避と反撃をほとんど同時に行った……
どれほどの時間が経っただろう、眩しい日差しが目に差し込んできた。
朝霧が起伏する山々に立ちこめ、碁盤の上には勝負がついていない対局が残っている。
目の前に立っている者は、さっきの黒ずくめの青年だった……彼は一言も言わず、私に刃を向けた。
剣鋒襲来
その瞬間、彼の呆然とした顔が横目に入った。あの客人に回避された時と同じように……
(本当に彼の攻撃を避けられたの?!)
白昼の陰
???:ほお?
無剣:うん、あ、会ったことがある。
夢の中だけどね……
ためらった様子の彼を見て、私はさっき起きたことを彼に説明した。
???:記憶のカケラか。お前は…何者だ?
無剣:わ、私は無剣!
???:何だと?それはまことか?
無剣:本当です!名前を変えたことはないかな……
???:……
???:昔の知人と似ているからもしやと思っていたが、どうやら勘違いのようだ。悪かったな。
無剣:大丈夫です。
じゃあ、そ、その……なんて呼べばいいですか?
???:孤剣だ
無剣:……
孤剣:……
無剣:孤剣、ここは……どこ?私の夢の中?
孤剣:そうであって、そうではない。
無剣:えっ?どういう意味。
孤剣:さあな、だが早く、ここから出て行ったほうがいい。
無剣:何が起こった?
孤剣:ふん、お前には関係ない。
突然、山頂に暴風が吹き荒れ、黒砂は稲妻を纏い、裂け目から幾つかの奇妙な姿が現れた。
夢中の魔物
孤剣:とりあえず片付いたが、命があるうちにここを離れろ。
無剣:一緒に行かないの?
孤剣:俺にはまだやることが残っているんでな。
無剣:孤剣、心配しないで。
ここが夢の中である限り、私はさっきのように思った通りに戦える。
あなた一人じゃどう見ても無理だよ、強がらないで。
孤剣:…勝手にしろ。
無剣:あ……ありがとう!
激しい対立
私は知らない間に記憶に巻き込まれたんだけど、絶情谷のことが私の友達に影響を与えるかもしれない。
孤剣:お前の友人?
無剣:うん、絶情谷の現当主よ。
私は目覚めてから今までの経緯を孤剣に話した。
氷火島で緑、金鈴、倚天、屠龍と出会ったこと、崑崙の山頂にて聖火と共に青光を撃退したこと、桃花の林中で玉簫たちと協力して紫薇と戦ったこと、古墓の隠し通路で氷魄と拂塵を迎撃したこと、絶情谷で君子と淑女に協力したこと。
孤剣:神兵の名を受け継いだ方と同行できるとは…
孤剣:分かった。絶情谷のことを全て話そう。結局のところお前が唯一、私と曦月を助けることができる者のようだからな。
無剣:あなたが「唯一」と言った以上、私は最後まで助けないとね。
孤剣:ふっ……ならば「最初」から話そう。
無剣:分 か り ま し た 。
孤剣:曦月と私は民間に言い伝えられてきた神兵──唐刀から由来している。
剣の形をする者は孤剣、刀の形をする者は曦月刀となる。
もっとも真偽の程は私にもわからん。考えるだけ無駄だ。
孤剣:私たちは元々二人だけで、絶情谷に住んでいた。
無剣:その頃、絶情谷には二人だけだったの?
孤剣:そうだ。
無剣:……
孤剣:曦月と私は犬猿の仲だった。
無剣:……自分こそ真の唐刀であることを証明したいの?
孤剣:確かにそれも理由の一つだが、主に性格と好みの差だ。
ある日、些細なことでやり合いになったのだが……
曦月:短い髪こそが武術を習う者に相応しいのです。長い髪は戦いの時に掴まれると…ね?
孤剣:武術を習う者は、ただ戦うだけの武人と比べ、より姿と精神の合一を追求する。
長髪は剣舞に適しているのだ。
曦月:白い服は正々堂々たる雰囲気を作り出します。
戦いの中で策を弄しても、相手は警戒しないでしょう。
孤剣:まさかそんな理由で…
曦月:今!真に受けましたね?
孤剣:バカバカしい。
曦月:ならばあなたはなぜ黒い服を選ぶのです?
孤剣:汚れにくい。
曦月:あっははは。単純な理由ですね。
孤剣:そうでもない。
白い服だと戦いの最中、泥や血がかかったら、汚れが目立つではないか。
曦月:ふん。血に染まらずして戦いと呼べるので?敵の血は戦装束をもっとも美しく引き立てるのです。
孤剣:武術を習う者は酒を飲むべきではない。体を害するだけでなく、精神をも萎靡沈滞させる。朦朧としている間に、大きな間違いを起こしてしまうかもしれん。
曦月:いないな。武術を習う人は広く交遊を持つべきです。酒はその近道ですよ。あなたみたいに一人で吟味する人は、別の流派の武学を見たことはあるのでしょうか。
曦月:あなたのその戒律地味た習慣もそう。夜は入浴してから剣の稽古?
それではまるで修行僧です。
孤剣:違う。
修練は精神を集中せねばならない。この谷は昼間は騒々しい。剣の稽古に適するわけがないだろう。
孤剣:話をするとギクシャクしてな。それ以来ほとんど断交していたのだ。
無剣:はは……面倒なことばっかりだね。
孤剣:執念だ。
無剣:そっか……ならどうやって親友になったの?
孤剣:偶然なきっかけさ。曦月を訪ねる友人がいた。
無剣:さっき私が見た人だ。
孤剣:後でわかったことだが、私にあの者の実力を試させておいて、隙ができたら、自分でやる算段だったのだ。
無剣:……随分と入念だね。
孤剣:ああ。だがあれは話にならなかった。私でも彼でも、あの者から三手以上受け止めることができなかったのだ。最後には負けず嫌いな曦月が二対一で挑むと言い出し、やっとのことで十手まで持ち堪えた。
無剣:まさか?!
私には分かる。あなたたちの剣術は太極八卦から生み出したもので、一撃一撃に真逆の動きを二種類も伴っている。
それほど高明な剣術を持ちながら、なぜ三撃以内に負けてしまったの?
孤剣:この陰陽攻法は後々二人で作ったものだ。当時の私たちは大した武術も無く、動きも単調だった。しかし、あの友人は指折りの剣侠。
敵わぬのは当然のことだった。
無剣:でも、もしあの剣侠がなかったら、二人は分かり合えなかったかもね。
孤剣:その通りだ。
起源が同じである私たちだが、なぜか物事に対してよく真逆の考え方をするのだ。
それ故に、お互いに長所と短所を補い合えれば、力を大いに上げることができる。
孤剣:それから、夕方に曦月と武芸の修業を始めたのだ。偶に太極八卦の探求もしたりして。
時が経つにつれ…
無剣:そうしてあなたたちは以心伝心の親友になれたんだね。
孤剣:話は後だ。迎え撃つぞ。
(奴らの気配を全く感じなかった……孤剣の反応速度は尋常じゃない……)
(あれが彼が言っていた夢妖なの?!)
昼夜の隔たり
孤剣:ああ。だがお前が現れてから、奴らの動きが活発になった。
無剣:(一体どういうこと……)
じゃあこれからやることは曦月を見つけ、あなたたちの脱出を手伝うこと。そうでしょう?
孤剣:曦月の居場所は分かっている。
脱出に力を貸すだけで良い。
無剣:分かるの?!
孤剣:もう半分の黒魚玉佩の中だ。
無剣:黒魚玉佩の中……何故そう言い切れるの?
孤剣:お前が持っている白魚玉佩は彼のものだ。ここの白夜と同じように、私とは相容れないものだ。
孤剣:そしてあの黒魚玉佩は私の所有物……
当時は災いから身を隠すために、魂を玉佩に宿すしかなかった。
無剣:災いって、前に見たあの黒い裂け目のこと?
孤剣:そうだ……あの日の夕方……
巨大な地震と共に、晴天からは耳を劈くばかりの雷が聞こえてきた。
更に不気味なのは、黒い裂け目が予兆もなく現れ、その周り全てを歪め、飲み込んでいったのだ。
孤剣:私たちは初めて見る情景を前に……
どうすることも出来ず、ただ逃げるしかなかった。谷底の碧水寒潭へ、そこまで行けば安全であることを願って。
無剣:もしやその裂け目って……
しばらくの沈黙は全てを物語っていた。あの謎の裂け目は恐らくあらゆる場所に現れるのだろう。
孤剣:死を待つよりも、死力を尽くして戦ったほうがマシだ。
孤剣:夕暮れ時、碧水寒潭で四象祭壇と自らの力で
霊を宿す法陣を作り、持っていた玉佩を交換した。
孤剣:「昼夜を永遠に分かつとも……」
これは彼に投げた、最後の言葉だった。
無剣:……
孤剣:後のことは覚えてない……
目が覚めたときは、すでにここにいた。
すまない。
無剣:(白魚玉佩と黒魚玉佩……太極陰陽……白昼と闇夜……)
(歪んだ裂け目と宿霊法陣は恐らく問題解決の鍵となるはず……でも情報不足だ……)
(多分曦月はこの不足分が分かるでしょう……)
無剣:自分を責める必要はないよ、安心して任せなさい!
私は必ず黒魚の玉佩を見つけ出し、曦月に会って、あなたをここから脱出させてみせる。
周りを見渡してみると、孤剣が居るところは山頂の片隅で、なんの道もない。
山自体は中腹から上まで真っ白な霧に覆われていて、何も見えない。
無剣:孤剣、私はどうやったら夢から目覚められば良いの?
まさか飛び降りるわけじゃないよね?
孤剣:急に覚めるのは、大体高い所から墜落する夢を見たからだろう。
無剣:そうなんだ……私の夢は、いつも命が狙われる夢だけだけどね。
言葉が終わらないうちに、暴風が吹き荒れた。
孤剣が言っていた裂け目が絶壁の下に現れ、
夢妖たちは私が離れることを阻止するかのように、先を争って山頂へと登った。
無剣:以前とは見た目違うみたい……
夢妖にも種類があるの?
孤剣:そうだ。
お前は……
無剣:孤剣、一緒に片付けましょう。
独りで迎戦
無剣:孤剣、しっかり!
また来るよ!
孤剣:行け!曦月を助け出せ!
無剣:?!
振り返った途端、孤剣に突き飛ばされ、崖から落ちた。
その瞬間、私は彼の頭上を飛び越えようとした妖怪が黒い剣光によって悉く斬られていくのを目の当たりにした。
無剣:孤剣!
山頂がどんどん遠くなり、
疲れ切った私は体勢を整えられず、白い霧へと真っ直ぐ落ちた。
儚い夜の夢
慌てて自分の体を確認し、
まだ無難だと分かってようやくホッとした。
無剣:夢の中ではもう半日近く経っていたのに、外では日没もまだだなんて。太陽の位置から見るに、恐らくほとんど時が経っていないのだろう……
白魚の玉佩を手に、私は再び芝生に寝転んだ。けれど動悸が止まらず、なかなか眠りにつけない。
焦った私は為すすべもなく、どうしたらいいのか分からなかった。
無剣:玉佩、戻らせて!
曦月の物なんでしょう、私は孤剣の力になりたいんだ!
いくら足掻いても、私は再び白魚の玉佩に入ることができなかった。
夕暮れが訪れると、私はついに諦めて、なにか他に出来ることをしようとした……
そう、黒魚の玉佩だ。
孤剣:行け!曦月を助け出せ!
無剣:ま、待ってね……黒魚の玉佩、黒魚の玉佩……
近くにあるはず……宿霊法陣の中心……白魚の玉佩の向こう……
私は孤剣の話の通りに、すぐにもう片方向で黒魚玉佩を見つけた。
けれど白魚玉佩と違い、それが私を夢の世界へ連れ込むことはなかった。
この黒魚玉佩は、ただの作りの優れた玉佩のように見える。
私は法陣の中心で座禅し、二つの玉佩を手の平に置き、
何かを見つけだすようと睨み続けた。
脳裏で孤剣の言葉と、一瞬過ぎ去った情景を繰り返し思い出した。
孤剣:陰陽のことわりを悟ったお前が、そのような弱音を吐くとはな。
曦月:これで、本当に逃げ場がなくなりました。
……
孤剣:お前が持っている白魚玉佩は彼のものだ。ここの白夜と同じように、私とは相容れないものだ。
無剣:白魚の玉佩は昼を、黒魚の玉佩は夜を意味する。
夜まで待つしかないか……
別の方法がない以上、私は二枚の玉佩を持って住まいに戻った。夜の到来を待つしかない……
曦月:美しい黄昏時の絶景を肴に、共に飲もうじゃありませんか?
孤剣:お断りだ。
曦月:つれないですね。それではこうしましょう。
酒に付き合っていただけるのでしたら、私もお茶に付き合いましょう。
孤剣:それなら考えてもいい。
曦月:孤剣、まだ行けそうですか。
孤剣:かすり傷だ。
曦月:この者どもにお見せしましょう、陰陽攻法の奥義を!
孤剣:いいだろう。
曦月:ここで一緒に死ぬのも、悪くない選択かもしれません。
孤剣:そうか?私は遠慮したいがな……
曦月:背水の陣、というやつですね!
孤剣:思うところが同じだ。
……
どれぐらい寝たのだろう、懐かしくて、けれど見知らぬ言葉が私を起こした。
真っ黒な幕の上で、光が一つずつ現れ、集い、眩しい翼へと変化した……
私はそれを頼りにして大地の縛りから逃げ、果てしない時空へ手を伸ばした……
再び呼吸があると意識した時、麗しい景色が目に映り込んだ。
遥か遠い果てに、一輪の満月がゆっくりと昇り、
静かで穏やかな湖にはたくさんの蓮の花が浮いていて、まるで銀河に輝く星々に答えているようだ。
無剣:この時この場所で、あの二人と共に飲めたらなぁ……
???:おや?夢妖を退治したばかりだというのに、今度は夢人が来ましたね?
闇夜の太陽
どちら様ですか?
無剣:無剣。
曦月:ほお~?それはあなたの名前ですか?
無剣:変なの、あなたも同じ事を聞くなんて。
曦月:えっ?あ~どこかで孤剣にでもお会いしたのですか?
私は昼夢で孤剣に出会ったことを、一部始終彼に伝えた。
曦月:ご心配なく。彼ほどの男、夢妖何匹程度でやられるわけがありませんよ。
無剣:そうだね……それは信じます。彼のことはあなたの方が詳しいだろうから。
災いのことを教えて。何かいい方法が見つかるかもしれない。
曦月:それは無理でしょう。
無剣:なんで?!
曦月:それは……
曦月:今日はとても良い日です。私たちがこんな素晴らしい贈り物をいただけるのですから。
???:そう遠くない未来で、五剣の境に異変が起きることが心配だ。
この陰陽玉佩はただの作り物じゃない、魂を宿せることができるんだ。
孤剣:天災なのか?それとも……
???:未来を予知する力は無い。けれど最近は不安が止まらない。
もし本当に何かあったときは、貴方たちだけでも無事出来るように。
曦月:友人の好意は拒むわけにはいきません。ありがたいことです。
孤剣:その表情から察するに、よほど大きなことなのだな。
???:はぁ……そうじゃないならいいけど。
曦月:ところでこの陰陽玉佩、どのように使えばいいのでしょうか?
???:この図に従って宿霊の法陣を配置する。
二人の心が通じ合った時、陣の中心で法陣を動かすんだ。
成功すると、黒白双魚は一つとなり、二人の魂は陰陽玉佩の中に宿ることが出来る。
???:離れたい時には玉佩の外から強い力を使って肉体を構築し、宿霊法陣で魂を転移させることが必要だ。
面倒だが、せめて災いから身を守ることはできる。
曦月:その時になったら……これが私たちの助けとなる、ということですか?
???:うん。
……
無剣:そういうことだったんだね。
曦月:バラバラの玉佩を持っているということは、私たちは宿霊法を完成できなかったのですね。
曦月:あの日、最初は順調だったのですが、途中横槍が入りましてね。
二つ地の黒い裂け目が私たちの足元に現れ、法陣を使用している最中の私たちを、別々に飲み込んだのです……
無剣:あなたたちに玉佩をあげた人は?
曦月:あれ以来会っていません。もしかしたら……
無剣:(魂を宿らせる……歪んだ裂け目……夢妖たち……)
違う、多分……
曦月:失礼。続きは後で話しましょう。
無剣:夢妖?!
曦月:自分の身は自分で守ってください。戦いに没頭してしまったら、あなたどころではなくなってしまいますから。
瓢箪から駒
無剣:もし宿霊法陣が失敗したのだとしたら、なんで二人はここにいるの?
曦月:それは……私もよく分かりません……
無剣:それと、なんで私がここに入って来られたのかずっと分からないんだ。
前に孤剣が言っていた。ここは私の夢であって、私の夢ではない。彼もはっきり理解していないと。
あと、頻繁に裂け目から出てくる夢妖たちは、一体……?
曦月:陰陽玉佩……魂を宿す法陣……全てを呑み込む裂け目……夢に繋ぐ力……
無剣:玉佩は容器だ。宿霊法陣の役割は魂を取り出し、預けることにある。
裂け目は通路みたいなものだ。物を片側から反対側へと引きずることができる。
なぜ夢の世界が入り口かというと……恐らく夢に入った後、魂が初めて肉体から離れるためだろう。
無剣:あなたたちの宿霊法陣は部分的に成功したと思う。でも偶然が重なって裂け目も玉佩の中に転移してしまったんだ。
そして二人の魂は完全に抽出されないまま、裂け目に呑み込まれている。
だから完成していない法陣が似たような効果を発揮したんだ。
曦月:まさか?!
無剣:私が夢に入った後、魂は歪んだ裂け目と融合した玉佩に引き寄せられ、この場へ来た。
ここは……私の夢の世界なんかじゃなくあなたたちの……魂の世界だ。
またこの白昼と闇夜の交換こそ、お互いを強く思っている証拠だ。
曦月:それはおかしいです!
本当に裂け目に呑み込まれているとしたら、なぜ夢から覚めることで、ここから離れることができるのですか?
無剣:きっと裂け目のせいだ……あの夢妖や夢魘たちのように……
今の玉佩は、この魂の世界と五剣の境を繋げている裂け目だ。
無剣:夢妖や夢魘たちも恐らく力の歪みから生み出された魔物だ。
曦月:私たち二人も、あなたみたいに、裂け目を通ってここから出られますか?
無剣:多分無理だと思う。今はあなたたちがここを支えているの。もし離れたら、出口に辿り着くことができないまま押し潰されるでしょう。
まずはあなたたちの代わりになる強大な力を探そう。
無剣:私の推測によると、あなたたちに陰陽玉佩を渡した友人にはその力があるはず……
だけど残念ながら行き先が分からない。
曦月:構いません。少なくとも、まだ希望が残されています。
無剣:あなたたちはもうしばらくここに留まることになるけれど、孤剣と再会させる方法だけある。
曦月:本当ですか?
無剣:あの剣客が言った仕組みによると、あなたたちは既に前段階を完成できているはず。
もう一度宿霊法陣を起動させ、残りを完成させればいい。
でも、昼間と黒夜が融合する時、力の衝突によってより多くの魔物が現れるかも……
曦月:私たちのが陰陽合璧を使えば、夢妖や夢魘がどんなに多くても、障害にはなりません。
それに、あなたも加勢するのでしょう?
無剣:うん、それならよかった。
じゃあ、どこに宿霊法陣の絵を探しにいけばいい?
曦月:宿霊法陣の竹簡は、絶情谷書房の隠し箱にあります。
陰陽玉佩を掛け軸の後ろにある溝に嵌め込めば、開けることが出来ます。
ただ、私たちのように、心が通じ合う二人が法陣を発動させないといけません。
無剣:ちょうどあなたたちみたいな二人組を知っているよ。
曦月:では、この檻の中であなたたちの努力を鑑賞させていただきましょう。
たくさんの夢妖や夢魘が湖から堤防へと登っている。曦月はあちらに指差して、溺れる合図をした。
無剣:もっといい場所に開けてくれないかなあ、この裂け目は。
曦月:あっはは、自害する体験というのは、そうあるものでは無いですね。どれ、私が先陣を切りましょうか!
湖中の渦巻
暗黒のような湖の底で、真っ黒な裂け目が縮んでいく。
それが消える前に私は潜り込むと、渦潮に無限の暗闇へと巻き込まれていった。
陰陽同境
三日後の夕暮れ、夢の中も外も戦いに備え、待ち構えていた……
無剣:黄昏時です。始めましょう。
無剣:君子さん、淑女さん、お願いだ。
君子:そう、当然だよ。
淑女:わたくしも賛成ですわ!
無剣:黄昏の刻、昼夜の間。
私は呪文を吟唱し始める、かつてここにいた彼らのように……
孤剣:北の祭壇、その力は陽であり;南の祭壇、その力は陰である。
曦月:東の祭壇、その力は柔とし;西の祭壇、その力は剛とする。
孤剣:南北が一極であり、陰陽が一極である。
曦月:東西は一極となり、剛柔は一極となる。
無剣:東西南北、循環往復、剛柔並済、陰陽交替。
霊は天地に宿り……
大地の振動と共に、夢妖たちはまるで沈むことを恐れる雷雨直前の蟻のように、一匹残らず湧き出た。
天の幕の上で、太陽と月は同時に輝いている。強風が山中の霧を吹き払い、飛び散る水が金色に煌めいている。
白昼と闇夜が一体となり、夕暮れの絶情谷に、私たち三人の姿が湖畔に現れた。
無剣:あなたたちを脱出させる方法を見つけるまで、辛抱して。
曦月:偽りの絶景でも、ずっと闇夜の中にいるよりはマシです。
孤剣:あの毒々しい日の光の方が気持ち悪い。
無剣:あなたたち、思い合って昼夜交換して宿ったことをもう忘れたの……
曦月:どういうことです?
孤剣:聞いたことないな。
無剣:……素直の無さから言ったら、二人の右に出る者がいないだろうね。
曦月:あっははははは、過ぎたことはもう忘れましょう。
高いところでも登って、景色を眺めようではないですか。
孤剣:茶も酒もないというのに、どうやって友人をもてなすのだ?
しかも……
曦月:へっ、山中には溢れんばかりの夢妖がいる。二人で片付け切れるでしょうかね~
無剣:笑うところか……
孤剣:世の中変わっている奴が多いということだ。
曦月:おやおや、まさか……
孤剣:三人で協力すれば、この程度の夢妖、敵ではない。
曦月:は──……
無剣:(二人とも息ぴったりで、言葉に別の意味が隠れているみたい。)
曦月、さっきあなたが言っていた……
曦月:些細なことです。
孤剣:大したことではない。
無剣:そ、そう……
黄昏再び
二時間も経たないうちに、私たちは夢妖や夢魘たちを殲滅できた。
二人と夕日の美景を眺めた後、私は山頂から飛び降り、懐かしい世界へと戻っていった……
山頂で私を見送った二人の姿こそが、私にとって一番の賞賛だった。
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