期年夢旅
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期年夢旅
夢の始まり
金糸&ハチ:金鈴!
無剣:金鈴!大丈夫なの!?
金鈴:僕は……大丈夫……
金鈴:ゴホッ……
無剣:早く──早く剣塚に連れ帰って治療を!
それは、何度も見た夢だった。
見慣れた姿が目の前に映り、忘れようとしていた記憶を蘇らせた。
嫉妬、脆弱、疑念……心の隅に埋められていた感情がどんどん肥大化し、夢を蝕んでいく……
寒玉金鈴:…無剣?
無剣:……
目の前にいる金鈴を見ると、私は夢から目覚めた。
寒玉金鈴:ここを通った時、あなたが僕の名前を呼んでいる声が聞こえたんだ。
無剣:そう……金鈴だったのね。
無剣:あなたは……そう……
もう……こんなに時が経っていたのね……
私が自分に向かってそう呟くと、目の前の人影はようやく夢の中の面影と重なって一つになった。
寒玉金鈴:顔色が悪いみたいだね。
無剣:ごめんなさい……
無剣:俺は……
金鈴は俯いて私を見ていた。彼の淡い金色の髪を透って、鎖骨にある傷跡が見えた。
目の前にいる人物は、もう初めて出会った頃の少年のままではない。
しかし過去の記憶は時が経っても消えることはなく、まだ鮮明に残っている。
金鈴は私の視線を感じたのか、一歩後ろに下がった。
寒玉金鈴:またそんなことを気にして……
寒玉金鈴:同門たちがまだ剣閣で僕を待ってるんだ、お先に失礼するね。
古墓派の祖師から武術を授かって以来、金鈴の武術の腕は急速に成長していた。でも性格は昔の彼のままのようだ。
ただ、古墓から帰ってきた金鈴の目からは以前よりも多くのものが映っているように感じられた。それは門派を継いだ責任か、或いは未来への洞察か。彼は更に強く、冷静になったようだ。
無剣:金鈴……
寒玉金鈴:なに?
無剣:私についてきたことを……後悔してない?
無剣:私さえいなければ……
寒玉金鈴:なにを馬鹿なことを……
金鈴は眉を顰め、色白な顔には赤みがさした。静かに鈴の音が響く。私は初めて出会った時のことを思い出していた。
寒玉金鈴:僕はずっと……
寒玉金鈴:ずっと……
金鈴の唇が微かに動いた。それは囁くほどの小さな声だったが、
それでも彼の伝えたかったことだけは、はっきり聞こえた気がした。
夜笛幽々
目が覚めると、見知らぬ場所にいた。周りには怪しい霧が漂い、空には星が輝いている。
無剣:ここは……
???:ここは……もう一つの世界。
聞き覚えのある声だが、私の知る誰の声にも似ていない。私は周りを見渡したが、そこには誰もいない。
無剣:……誰?!
???:ついてきてください。
私はためらいながらも声のする方向に向かって歩いた。
すると突然、周りの風景が崩れ、私はよく知った場所へと落ちた。そこは──
氷火島。
夢帰氷火
遠くの山の麓に、二人の人影が見えた。
一人は銀髪で白い服を着ており、剣を握っている。もう一人は赤毛で褐色の服を着ており、こちらは刀を携えている。
彼らの目の前には、魍魎の群れ。今にも襲い掛かろうとしている。
無剣:倚天!屠龍!
私は二人の名前を叫んだが、なんの返事も返ってこない。
私は彼らの方へ走り出そうとしたが、その時、誰かに掴まれて動けなくなった。
???:そんなことできません。
焦っている私に、その人物は軽く首を横に振りながら微笑みかけた。私は彼を振り払おうとするが、どうもがいてもその手から逃げられない。
無剣:ねぇ……
???:ここでは私が実、君は虚。無駄なことはしない方がいい。
無剣:あなたは誰なの?なぜ私をこんな所に?
???:いずれ知る時がくる、今はただ傍観すればいい。
無剣:でも……
彼が言い終えると、私を掴んでいた力は消えた。
そして、周りの景色がまた一変する。氷の世界は砕かれ、目の前には崑崙山の白雪が映っていた。
幻境の中
霊蛇と飛燕が住んでいた場所は、いまや塵と蜘蛛の糸だらけになっており、山麓には邪悪な気配を放つ引魂鏡が立っている。
魍魎たちが引魂鏡に引き寄せられ、空間には魍魎たちの怨念が満ちている。
雪が空から舞い落ちた。
空に突如として紋様が生じた……
無剣:結界?!
私は剣気を発すると、空気が微かに揺れた。視線を剣気に落とし、心を落ち着かせる。
無剣:“私が実、君は虚……”
あの人物が言っていた言葉を暗唱し、ここから脱出する手がかりを探る。
魍魎:ゴゴゴゴゴゴオォォーー
魍魎たちは心魄の匂いに誘われ、雄叫びをあげながら山頂へ上っていく。あの方向は……
無剣:まずい……光明頂!
無剣:やめなさい!
しかし駆けだそうとした私の足が突然重くなり、その場から動けなくなった。
無剣:放して!
疑いと怒りと恐れが私の心に満ちていく。
絶望に伏しそうになったとき、鈴の音が再び鳴った。
ちりん──ちりん──
鈴の音が近づいてくる、振り向くと、そこには見慣れた顔があった。
無剣:………金鈴?
金鈴は首を横に振り、微笑みながら私に手を差し伸べた。
寒玉金鈴:さあ、来て。
私は迷わず金鈴の手を握った。
指先が触れ合った瞬間、温かい気持ちが私の体の中に広がったのを感じた。
よくよく金鈴の顔を見てみると、なぜかこの金鈴は私の知っている金鈴ではない気がしてくる。そしてまた金鈴も静かに私を見ていた。
無剣:金鈴、どうすればここから出られるの?
寒玉金鈴:行くべき場所へ行ってください、彼はそこであなたを待っているよ。
無剣:行くべき場所……
無剣:剣塚のこと?
“彼”っていうのは?
寒玉金鈴:あなたをここへ連れてきた人。
氷火島で会った青年のことを思い出す。
彼が……私をここに連れてきた人?
寒玉金鈴:大丈夫、ここを出るまで、僕があなたを守るから。
無剣:ありがとう……金鈴。
金鈴は微笑んだ。そして二人で山から下りた。
夢中倒影
桃花島、古墓、絶情谷……その景色は氷火島、崑崙山と同じく、記憶の中の景色そのものだった。
しかしなぜか私は、この世界からは何かが欠けている様に思えた。
それが何かは分からないが、ただ、ここは私の元居た世界ではないと感じる。
仲間たちと一緒に戦ってきたあの世界ではない。
無剣:金鈴。
寒玉金鈴:……
無剣:もうすぐ剣塚……よね。
寒玉金鈴:うん。
無剣:なぜ記憶の中の剣塚と違っているのかしら?
私は金鈴と共に剣塚の外に来た。玉簫の仕掛けの痕跡は消えており、魍魎たちが彷徨っている。
寒玉金鈴:入ってみればわかるよ。
歩き慣れた剣閣の中道を通る。私はこの状況から脱することを期待していたが、そこで私が見たのは信じられない光景だった。
無剣:これは?!
寒玉金鈴:……
庭の中央に聳え立つ木は枯れており、そこから落ちた枯れ葉が水中でゆらりと旋回している。私は池に向かい、水面を見下ろした。
寒玉金鈴:もう……わかりましたか?
無剣:ええ……わかったわ……
その澄んだ水面に、私の影だけが映らなかった。
この世界から欠けているもの……それは“私”。
金鈴は私の手をとり、水面に触れた。
すると瞬時に光の波が水面を走った。
浮かんでいた枯れ葉が黄金色になったかと思うと、
それは水面から樹冠に向かって宙に弧を描き、
次々と元あった木の枝へと戻っていった。
一筋の光が水中に差し込んだ。私をこの世界へ連れてきた白髪の青年が光の中から姿を現し、ゆっくりと私と金鈴の前に歩いて来た。
寒玉金鈴:……やはりあなたでしたか、“引夢”。
金鈴は彼の存在に驚いてはおらず、まるで知り合いかのようだ。その引夢と呼ばれた人物は金鈴に何も応えず、ただ私を見つめて、少し笑った。
引夢:こちらが君の“守護者”ですか。
無剣:“守護者”?
彼は金鈴……私の仲間よ。
寒玉金鈴:……
引夢:フフ……言ったはずだよ、この世界では私が実、君は虚だと。“仲間”であっても“守護者”であっても、君の心の中に存在する、私とこの世界に対抗する力という存在に過ぎない。
引夢:金鈴は一番長く君の傍にいた存在であり、また君と“この世界”の繋がりでもある。君の目の前にいる金鈴こそ、その力が実体化した姿なのさ。
無剣:私と……この世界の……繋がり?
引夢:無剣、ここは君の夢の中なんだよ。
引夢:さっき見せたのは、この世界とは違う、別の世界のもう一つの五剣の境の姿。君がこの世界に来ていない時の姿なんだ。
引夢:君はこんな五剣の境を見たいのかい?
無剣:俺は……
遠い声:無剣……無剣!
無剣:こんな五剣の境なんて……
心の中で決めた答えを口に出そうとしたが、なぜかどうしても言葉を発することができなかった。
無形の圧力が私に襲いかかる。金鈴は私を守り、幻影たちを蹴散らした……
目覚め
私を呼ぶ声がだんだんと大きくなる。一瞬の眩暈の後、私は再び目を開いた。
テンコウ:早く起きてください、ご客人がお見えですよ。
期年の礼
無剣:これは道長、遠方よりご足労いただきありがとうございます。
秋水:こちらこそ……
テンコウからの手紙を拝見しました。
テンコウ:……秋水師叔!
秋水:ゴホっ……う……噂でお聞きしました、貴方が五剣の境に戻ってもうすぐ一年とのこと。これは全真教からの贈り物です。
無剣:それは…
秋水:大したものではありませんが、今までテンコウの面倒を見ていただいたお礼です、ぜひお受け取りください。
無剣:道長がそう仰るのであれば……ありがとうございます。
私は秋水から小箱を受け取り、テンコウに渡した。
無剣:道長……
秋水:なに?
無剣:俺は……
先ほどの夢での出来事を秋水に聞くべきかどうか迷っている……
しかし秋水は私の顔色を見て察したようだ。
秋水:何かお悩み事でもあるのでしょうか?
無剣:実は昨日……夢で不思議な世界を見ました。
秋水:不思議な世界?
無剣:はい、夢の中で言われた話によると、それは私が五剣の境に来ていない時の世界だというのです。
秋水:ほぉ?
無剣:そんな世界が……本当に存在するのですか?
私の問いかけを聞いて、秋水は暫し沈黙し何かを考えているようだ。
秋水:道家の御先祖様はかつて言いました。蝶となり百年を花上に遊ぶ夢を見て目が覚めたが、果たして自分が夢で蝶となったのか、自分が蝶の見ている夢なのか、と。
無剣:聞いたことがあります。
秋水:ひょっとすると……夢の中のあなたは、その蝶なのかもしれませんね。
無剣:……蝶?
私はもう一度問いかけたが、秋水は微笑むだけで、これ以上何も言わなかった。
秋水を見送った後、彼の言った言葉の意味を考えていた。
もしかして……夢の中で彼が言っていた世界は本当に存在するのか?
「引夢」とは一体何者なのか?
たぶん、答えは夢の中でしか見つからない。
しかしそれから数日間、私は一度もあの夢の中の人物には会えなかった。
“あの世界”の記憶も次第に薄れていく。
この数日の間、次々と剣塚にお礼が送られてきた。私は剣塚で返礼の品を用意し、皆のところへ訪ねようと支度を整える。
剣塚の外ではまだ魍魎が彷徨っていた。魍魎を一掃し、歩を進めていると、遠くからこちらに向かってくる二つの人影が見えた。
剣塚奇遇
無剣:聖火……それに白虹?あなたたち……
白虹:聖火と一緒にお前の顔を見に来たんだが、まさかこんな所で出会うとはな。
聖火:ちょうどよかった、もう少し遅れてたら行き違いになっていたな。
聖火:これはあなたへの贈り物だよ、開けてみて。
無剣:こんな素敵なもの……どうもありがとう。ねえ、せっかくだし一緒に剣塚に戻らない?宴席に招待するわ。
聖火:俺は構わないが……
白虹:聖火、俺達の目的を忘れるなよ。
白虹:無剣、誘いはありがたいが、俺達にはまだ大事な用があってな……
無剣:そっか、でも用事って……
白虹:古い知り合いがペルシャの本山から戻ってくるものでな、俺達は光明頂に戻って出迎えの準備をしなければならん。
白虹がそう言った後、聖火の顔は少し固くなり、真面目な表情になった。
無剣:それは生憎ね……
聖火:すまんな、また改めて会いに来るよ。
旧友往訪
君子:無剣……?お…お前、どうして絶情谷に……
無剣:ぐぅ……
どう答えていいものかわからなかった。
淑女:あははっ、気にしないで、この子はまだお礼の事で拗ねてるだけだから。
無剣:ええ、まさにそのことで伺ったのよ。
先日九曲さんが絶情谷からの贈り物を持ってきてくれたわ。二人ともありがとう。
君子:その贈り物……気に入ったか?
確か絶情谷からの贈り物は、毒を除けた情花から作られた香料だった。
無剣:ええ、とても気に入ったわ。
君子:あなたは……
淑女:この子は貴方が淡い香りが好きだと思っていたみたい。
淑女は一歩進んで私の近くまで来た。
淑女:私の作ったものに意見するなんて初めてだったわ。
いつもお姉ちゃんの作ったものなら何でもいいって言っててね。
それはそれで嬉しいけど、それじゃ友達ができないんじゃないかって心配してたのよ。
淑女:ありがとう無剣。
私は、それがそれほどの思いの込められた品だとは思っていなかった。嬉しい反面、何を答えていいのかわからない。
君子:外の人間が来るのは嫌だけど、お前なら……
一晩くらいは休んでいってもいいぞ。
淑女:フフ……君子も大人になったわね。
この子もこう言ってることだし、今夜はここに泊っていけばどうかしら?たまには一緒に飲みましょうよ。
無剣:誘ってくれてありがとう。私ももう少しお邪魔したかったんだけど、早く届けなきゃいけないものがあってね。お返しを全部届けたらまた絶情谷に来るから。
淑女:そっか、なら引き留めても悪いわね……二人でそこまで送らせて。
終南再会
無剣:お出迎えいただきありがとうございます。
帰一:どういたしまして。秋水師兄は剣塚を発ってから他所へ行っていましてね、まだ帰って来ていないのです。
無剣:なるほど、そうでしたか。
こちらはつまらないものですが、どうぞ。
帰一:あれはあくまでテンコウの面倒を見ていただいたお礼をしたまで、このように返礼していただく必要は……
無剣:これは私が手作りで用意したもの、ここは私の顔を立てると思い、お受け取りいただけないでしょうか。
帰一:ではお言葉に甘えて……
帰一:そうそう、今回秋水師兄は私たちの雲遊中の師匠、全真教の前任掌教を探しに行ったのです。
帰一:もし彼が全真教に戻ってくれば、テンコウにも何か転機があるかもしれませんね。
無剣:それは何よりです。テンコウは剣塚にいる時もよく全真教のことを思っていたようです。そろそろ彼も全真教の門下に戻る時が来たのでしょうか。
帰一:ただ、その件についてはもう少し考える必要がありますね。
無剣:まだ行くべき場所がありますので、今日はこれで失礼します。またお会いできるのを楽しみにしていますね。
虚実相映
舟から降りると、見慣れた人物の姿が目に入った。
毒龍:ああ、あなたでしたか。
無剣:この前桃花島の皆さんからの贈り物をいただいたわ、どうもありがとう。
毒龍:贈り物?何かの生き物ですかね。でなければ……フフ。
無剣:……
無剣:桃花島の主はどこに?
毒龍は軽く笑って、私に手招きした。
毒龍:ついてきてください。
桃木の下にいた玉簫は鋤を収め、こちら振り向いた。
玉簫:おや?今日はまたどうかしましたか?
無剣:桃花島の皆さんに返礼の品を用意しました、どうぞお受け取りください。
玉簫:これはこれは、ありがとうございます。毒龍、無剣さんからの贈り物を皆に分けてくれますか。
毒龍:分 か り ま し た 。
毒龍がその場から離れた。玉簫は私を桃林へ散歩に誘った。私は特に急いでいなかったこともあり、それについていく。
玉簫:この一年間、お疲れ様でした。
剣境を守るのは私の責務だと言おうと思った瞬間、なぜか先日の不思議な夢を思い出し、何も口に出せなくなった。
玉簫:今日はお伝えしたいことがあります。是非聞いていただきことが。
無剣:はい……何でしょう?
玉簫:木剣は逃げましたが、あなたがまだ戻ってきていない間に、彼は多くの手下を集めました。いまや木剣がいちいち自ら手を下すことはありませんが、彼に従っている残存勢力たちは侮れません。
玉簫:絶命堂のやり方は既にご存知かと思います。彼らは木剣の勢力の一部にすぎませんが、木剣が隠れている以上、その手下がどう動くのかは読めません。
玉簫:敵は闇に潜んでいます、油断してはいけませんよ。
無剣:……
玉簫は私が沈黙している様子を見て、心配そうな表情を浮かべた。
玉簫:あなたは迷っていますね。
無剣:うん。
無剣:最近、よく昔の事を思い出します。氷火島や古墓、五剣の境の色々な場所に居たときのことを……
無剣:私は仲間たちと多くの出来事、陰謀、戦いを経験してきました。
そして私はずっと、私のやっていることは全て主の残した五剣の境を守る為なんだと思っていました……
玉簫が笑って遠方を眺めていた。
玉簫:それで、あなたの本心はどうなのですか?
無剣:俺は……
無剣:何も考えていないのです。
無剣:最初に目が覚めた時、私は宿命に推されて動くだけの人間でした。
その後、己の使命と責務、昔の事の全てを思い出したのです。
無剣:でも私は……
玉簫:考えてみてください、もしあなたが一度も五剣の境に来ていなかったら、どうなっていたと思いますか?
無剣:一度も……五剣の境に来ていなかったら……
玉簫簫からの問いかけは、あの時の夢を思い出させた。あの「引夢」という人物からも似たような質問をされたが、答えを口に出す前に現実へ戻ったのだった。
今の私には心の中には……答えはあるのだろうか?
暗黒と光
剣塚に戻った日の夜、私はまたあの妙な夢に落ちた。
果てのない幻境の虚空に立つ私の前に、引夢が姿を現した。
そして私の後ろには、あの優しく力強い金色の人影が立っていた。
二人は相対し、まるで闇と光を象徴しているようだ。
寒玉金鈴:……
引夢:また来たんだね。
無剣:あなたが私を連れて来たんでしょう。
引夢:……フ。
引夢:けど君がここに来ようと思っていなければ、私も連れてくることはできないのです。
引夢:私に隙を見せたのは君自身だよ……
引夢が私に近づいた。後ろにいる金鈴も私の傍に立ち、静かに彼を見つめている。
引夢:今の君には……答えがあるのかな?
無剣:俺は……
引夢:さっき見せたのは、この世界とは違う、別の世界のもう一つの五剣の境の姿。君がこの世界に来ていない時の姿なんだ。
引夢:君はこんな五剣の境を見たいのかい?
引夢の言葉が私の心の中に響く。あのとき私を惑わせた問いかけは、今その答えを待っている。
無剣:私は……嫌です。
無剣:私はそこに……五剣の境に残りたい。
私は傍にいる金鈴を見た、彼の目からは固い意志が窺える。
寒玉金鈴:僕はずっとあなたの傍にいるよ。
無剣:うん。
私と……元の世界にもどりましょう。
引夢:では……私を倒さなければいけないね。
引夢:君の心に潜む弱さも迷いも疑いも……一一全て打ち砕くんだ。
遠のく笛音
引夢:あなたの勝ちです。
引夢:そろそろ私が約束を果たす時だね。
笛の音が再び響き始めた。それは以前とは違った旋律だった。豊かな奏でに誘われ、私の意識は遠のいた。
再び目を覚ました時、私は見慣れたいつもの剣塚に戻っていた。
私はようやく、この長い夢から目覚めた。
まだあの笛の音が聞こえる。それは長い夜が終わり、暗闇の中から日の光が差し込むまで微かに響いていた。
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